このアルバム、この1曲 by 浦島五月  vol.2

♪July 23, 2008♪
, Janis Joplin/ MoCoy Tyner / Pink Floyd /Charles Tolliver/Gill Evans


ジャニス・ジョプリン  Summertime

 ずっと長いこと、ジャニスのサマータイムはガーシュインのサマータイムとは別の曲だと思っていた。確かにビッグブラザーバンドのイントロはガーシュインに聞こえるのだが、焼き尽くすような彼女の歌声は別の夏を歌っているようなのだ。そのボーカルは朝凪から予感する暑さを遥かに超えてしまい、彼女が本当に生きながらブルースに葬られることを想ったかのようにコントロール不能な生き様までが重なってしまう。ジャニスはベッシー・スミスをよく聴いていたそうで、そのかすれ声にノイジーなSP盤を連想はできるが、ジャニスのサマータイムには他の誰からも聞くことのできない「夏」がある。ジミ・ヘンドリクスの死に「先を越された」と語った27歳のジャニスが死体で発見されたのは、この67年3月のニューヨークでのライブから2年半後の70年10月のことだった。 
Cheap Thrills / Big Brother & the Holding Company

 

マッコイ・タイナー Will You Still Be Mine

 ギル・エバンスが晩年にマンデイ・ナイト・オーケストラと名づけたバンドで出演していたということで、スイートベイジルというクラブの名前を覚えてはいるが、野菜にハーブを添えることもないのに、ベジタリアンのレストランのような印象がいつまでも消えない。でも、ここで演奏されているのはピアノトリオのストレートなジャズばかりで、エルビン・ジョーンズと供に在籍したジョン・コルトレーンのカルテット時代と比べても仕方ないが、この'Will You Still Be Mine'を聴くと歌物が小粋だったトレーンの一面を受け継いでいるようだ。その他、このライブではセロニアス・モンクやトレーンの曲が多く、タイナーのルーツはパウエルだけではないことを窺がわせる。余計だが、一見つまらない二枚組CDのジャケットは、白文字が浮き色文字が沈んで、よく見れば見るほど不思議だ。 
Live at Sweet Basil/McCoy Tyner

 90125
 

ピンク・フロイド     もしも・・・

 ミケランジェロ・アントニオーニ死去の記事を読みながら、映画といえば二本立てが当たり前だった頃に見た「砂丘」のシーンを思い出していた。思い出すのは洗濯物?が空宙に舞う映像とピンク・フロイドのサウンドトラックだけで、どんな写真だったか記憶がない。もう一方の映画が目当てだったのだろう。これより他にこの監督の映画は知らないし、ピンク・フロイドもこの頃しか知らない。小さなラジオから流れる音とは違って、この時にスクリーンを前に閉ざされた映画館で周囲の大型スピーカーから吐き出されるサウンドに目覚めたのは、ちょっとストイックなピンク・フロイドとの出会いとしては理想的だったかもしれない。このアルバム「原子心母」は映画とは関係ないが、何故かこの頃のアンディ・ウォーホール展のシルクスクリーン製ポスターにも牛の顔があった。  Atom Hart Mother / Pink Floyd

 

チャールズ・トリバー Brilliant Circles

 ポン酢と一緒に届いたプレゼントがこのCDだったのだが、まだこれに見合うほどのいいお返しが見つかっていない。若きキース・ジャレットやジャック・ディジョネットをサイドに擁していたチャールズ・ロイドのバンドと間違えて聴きはじめた。実際にはフリューゲルホーンのC.トリバーによるワンホーンのカルテットで、ミュンヘンのドミシル・クラブでのライブレコーディングになる真正面からのジャズだった。勿論、ピアノはキースではなくて、今になると不思議にもアンカーのような落ち着きに渋ささえ感じさせるスタンリー・カウエル。J.ディジョネットと比べるまでもなく面白いのはドラムスで、シンバルが小うるさく聞こえたアルビン・クイーンだったが、調教されるかのように次第に快いうねりに呑み込まれてしまう。彼のドラムがこのバンドのエンジンになっていることが分る。自主レーベル"ストラタ・イースト"を設立して、フュージョン全盛の70年代にもハードバップを進化させていた彼らの演奏をCDに留めたこのプレゼントは貴重品だ。  
Impact/Charles Tolliver Music Inc

ギル・エバンス  Voodoo Chile

 隣町の文化会館のステージに置かれたベーゼンドルファーがこんなに音を出すのは年に何度あることなのだろうか。ドライブのかかったウゴナ・オケグオのベースはドラムのジョー・ストラッサを巻き込みベニー・グリーンのピアノを加速して行った。この日の主役は町のアマチュアビッグバンドだったが、キース・ロフティス(ts)、ケニヤッタ・ビズリー(tp)らゲスト達はバンドの分厚い音に包まれアドリブから譜面に戻ろうとしなかった。

 プロのプレイヤーを抱えるビッグバンドの維持は難しいらしく、1980年代のギル・エバンスは月曜日だけのマンデイ・ナイト・オーケストラを組織した。スウィート・ベイジルでのライブアルバムでは、ジョージ・アダムスなど誰もがバンドリーダーになっていいようなメンバーがジャムセッション風に交替して展開している。ギルは作曲に注目されることの少ないジミ・ヘンドリクスがお気に入りで、ここでも早逝した天才ギタリストの曲をアレンジしてその可能性を孵化させている。
Live At Sweet Basil/Gil Evans


「このアルバム、この1曲 vol.2」2008年7月23日