“嵐の使者”における新しい試み
藤中浩樹

 

 武内さんから「ディープ・パープルについて書いてくれないか」と原稿の依頼を受けたのは確か桜咲く春のとある日。思うように書いてくれればいい、とは言われたものの何を書いていいものか思案している間にもう秋。レジャーの秋、食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋。みなさんはどのような秋を過ごされているのでしょうか(?)。

 私にとっては”音楽の秋”。
 イエスの新譜やキング・クリムゾンのボックス・セットが(また)発売された事だし、久しぶりに日本橋を徘徊することにした。御存じのとおり日本橋と言えば電気店街。最近はパソコン・ショップだらけだが、実はここには中古CD店が集中している。私にとって日本橋は音楽の街だ。そしてここで購入したのが本日お話する『嵐の使者/ディープ・パープル』である(もっとも、購入したのは4チャンネルの海賊盤だが)。

 『嵐の使者』は1974年12月に発売された。パーソナルはデビッド・カバーデル(ボーカル)、リッチー・ブラックモア(ギター)、グレン・ヒューズ(ベース、ボーカル)、イアン・ペイス(ドラム)、ジョン・ロード(キーボード)の5名。第3期ディープ・パープルの2枚目のアルバムである。
 様式美のハード・ロックを追求した第2期から、バラードが歌えるシンガー、デビッド・カバーデルと、歌えるベーシスト、グレン・ヒューズが加入した第3期パープル。そのデビュー・アルバムである『紫の炎』は既存のメンバーがイニシアチブを取ったのに対し、『嵐の使者』では新加入の2人が頭角を現している。そして前作よりさらにソウルフルでファンキーになったサウンドは、リッチー・ブラックモアに脱退を決意させることになった。こういうこともあり『紫の肖像』と共に精彩を欠くアルバムになってしまったのだが、このアルバムでは幾つかの新しい試みが施されている。以下、“『嵐の使者』における新しい試み”について述べたいと思う。

1) 先ずはサウンド面から。このアルバムでは初めてメイン・ボーカリスト以外のメンバーがリード・ボーカルをとった。A-3の「聖人」ではグレン・ヒューズがリード・ボーカルをとっている。グレン・ヒューズは元々トラピーズでメイン・ボーカリストを勤めていたので、デビッド・カバーデルのディープ・パープル加入が決定するまではほぼ彼がメイン・ボーカルをとる予定だった。こういった経緯もあり今後“リード・ボーカル争い”が激しくなるのである。

2)アルバム・ジャケット(表、裏)に初めてメンバーの写真、またはイラストが載らなかった(オリジナル・アルバムのみ)。またジャケット表裏でひとつのイラストになっている(このイラストの全景は非常に美しい)。アルバム・タイトルと考え合わせるとコンセプト・アルバムの意味合いが強いが、実はそうではない。しかしながらその時のメンバー間の確執、そしてパープルの未来を象徴しているように思えてならない。裏ジャケットに歌詞が印刷されているのも初めての試みである。

3)『Deep Purple』の“ロゴ・マーク”なのであるが、初めてロゴ・マークらしいロゴ・マークが使われた、ということになるのであろうか。一般に、パープル・ファンが一番に思い浮かべるあの有名な(?)ロゴ・マークは実はオリジナル・アルバムではこのアルバムでしか使われていない。というよりもアルバムごとにロゴ・マークが変わって行く。それならばロゴ・マークとは言わないのではないかと思う人がいるかもしれないが、この後ライブ盤、編集盤、書籍などでこのロゴ・マークが多数引用されることになるのであるディープ・パープル唯一のロゴ・マークといっても過言ではあるまい。

 駄作と言われながらも以上のような新しい試みが認められる『嵐の使者』。パープルの対極にあったレッド・ツェッペリンが色々なジャンルの音楽を吸収しながら独自の音楽性を確立したのに対し、パープルではそれが結局認められなかった訳なのだが、はたしてそれは不幸なことだったのだろうか。パープルがパープルらしかった70年代初期の音楽、それは中世バロック音楽から始まり様式美ハード・ロックとして昇華し、長々と演奏されたインプロビゼーションこそがパープルの真の姿だったと思う。そしてその流れはこのアルバムを最後に脱退したリッチー・ブラックモアによってレインボーへと引き継がれてゆくのである。

 最後にマニアックな話を。
 今回『嵐の使者』について書くきっかけとなった4チャンネル盤についてだが、オリジナルは75年初頭にアメリカのみで発売されプレス枚数も少なくプレミアものである。ジャケットの左上に"QUADORADISC"のマークが赤で印刷されている(参考までにディープ・パープルのアルバムでは他に『マシン・ヘッド』で4チャンネル盤が存在する)。今回入手したのはその海賊CD。もちろんこのCDは2チャンネルなのでミックス盤ということになる。サウンド面での違いとなるとミックス盤(しかも海賊盤)なので各パートのバランスの違いは仕方ないとして著明な違いはB-5「幸運な兵士」のボーカルにみられる。2コーラス目の最後、"Echo in the distance"の部分がオリジナル盤ではボーカル・ラインが上がっているのに対し、4チャンネル盤では下がっている。残念ながら今回は他に違いが認められなかった。今後CDのリマスター・シリーズが続けば新たな発見があるかもしれない。

SCOPE 藤中浩樹

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