- グチダラ制度徘徊 - 浦島五月
【1】
 

もうそろそろサラリーマン生活を終わりにして、自分で社会保険労務士事務所を開くことに決めた。今の勤め先できちんと給料を貰えるのなら、たいした収入の有るはずのない仕事を始めることもないのに…と周囲の人達から言われる。事務所の家賃やパートの人件費などの分りきった経費だけ考えても今の給料くらいの収入をあげていては住宅ローンを払った後の生活費が出てきそうもない。本当のところ、かなりの収入を上げないと、健康保険証もなくなるし、お金を借りるにも保証人もいないし、支出は確実に計算できるし、金銭面で計算すると開業するメリットはあまり見当たらない。ただ、一人前の人間がまともな仕事をして、家族とともに暮せないようなことにはならないだろうと、楽観的に世の人を頼りにしているだけのことだ。

これまでも、社会保険や賃金計算・労務管理に関る仕事をしてきて、サラリーマンというのは国の制度にしっかりと組み込まれた特別な扱いを受けるものとぼんやりと感じてきた。これから開業して、自分の足で立って自分の足で歩くのだと思うと、あらためて目隠しをされて手足を縛られてはいてもその見返りが与えられていたことを自覚する。この恩恵を十分に受けて経費で飲み食いして小金を株やゴルフで運用する要領のいい人なら、今は「残留」して安定収入を確保する時期のようだ。全てにおいて要領のない私には、これまで仕事のうえでも専門家なら立ち止まって考えてはいけない下らない事が気になっていた。これまでの仕事に一区切りつける時期にきて、ずっと給料だけで生活してきた自分自身のことや、労務管理の担当として賃金計算や年末調整を通してみた税の奇怪さを、下らないなりに税の専門家とは違う少し違う方向からまとめてみたい。

 
 

【消費税】

 
 

個人的な事から始めると、税金について誠に情けなく思ったのは、自宅を購入した際の消費税と住宅取得控除だった。通勤手当や年末調整など賃金労働者を馬鹿にしているのではないかと思うような制度もあって、税に関して好き勝手なことを書き始めると誰もが際限が無くなりそうである。まずは、住宅に掛かる消費税のことから…。

もう既に十数年前のことになるが、何度も住宅供給公社の分譲に応募したものの抽選に外れてしまい、何度目かにキャンセルがあってようやく今の自宅を購入することができた。平成二年の秋のことで、バブルの末期というより崩壊寸前で借入金利は6%、消費税が導入された直後で税率は3%、年ごとに土地や建築価格の値上がりを実感していた時期だった。古い家の屋根の一部を修理したり水周りを少しいじったりするだけでも何百万もの見積を出されてしまい、直すよりも建てた方がはるかに安くて楽だということになってしまったのだ。古い住宅を修理しようとしても支援はなく、新築になると工務店も積極的で、融資や税制上のメリットも強調された。その頃は、住宅金融公庫でローンを組めば返済はアパートの家賃並ということで、土地代金を別にすれば実際にその通りだった。

後になって振り返ってみると、もう少し早く抽選に当たっていたら随分と負担が楽になっていたのに…、と思うことがよくある。なにしろ、数年間に亘って総額では500万円を超える額を消費税のために払い続けていたのだ。この金額から逆算すると億を超える豪邸を建てたようにも思う人がいるかもしれないがそうではない。1,500万円ほどの住宅に消費税3%がのって、それを6%の金利で返済していたために、一年に100万円足らずの返済では6年経っても借入残高は20万円も減らなかったということなのだ。多分、このことを金融機関の立場から言うと返済期間が数年延びたために返済総額が数百万円増えたというだけのことだろう。同じ金額を返済したとして、金利が1%安ければ残高は減り続けて3年のうちには消費税分ぐらいは返済しただろうし、消費税率が5%だったなら10年かけても消費税の半分ほどしか返済が進んでいなかったかもしれない。住宅取得にあたって住宅ローンを組むのが当り前になっているのだから、私と同じように消費税45万円(1,500万円×3%)のために576万円(8万円×12月×6年=576万円;金利1,500万円×6%×6年=540万円;差引元金返済36万円)を支払うような結果になった人は少なくないだろう。

消費税自体について廃止すべきとの考えもあるだろうし、むしろ今後は更に拡大すべきとの考えもあるだろうが、いずれにせよ制度として運用する以上は、税制はシンプルで分り易く例外を少なくし不公平感の無いものであって欲しいと考える。食料品・医療費・教育費・住宅・水光費など課税の特例を求めたくなるものを挙げていくと限りが無い。特例が増えるだけ税制は分りにくく奇怪な印象を与えるだろうし不公平感も強くなりそうだ。むしろ例外なく課税したうえで、一定の限度なり制限なりは必要になるだろうが、戻し税のような方法で調整できないものかと考えている。例えば、住宅に掛かる消費税であれば購入時に免税ということではなく通常に建築業者を通じてを納税し、その後、居住面積とか購入価格とかに応じて払い戻すようなやり方を採ってもいいように思うのだ。具体的には、住宅部分の面積で150平米とか建築価格で2,000万円とかの限度を設定して、200平米4,000万円の住宅なら面積で4分の3=3,000万円、価格で2分の1=2,000万円、に対応する程度の消費税を戻すことにすれば豪邸を建てて高額の戻しを受けるようなことにもならないだろう。必要なら、最低100万円以上の修理だとか、10年の内に何千万円とかの条件をつけるなどすれば現実的な運用が可能になるだろう。問題があるとすれば、住宅を建築販売した人が預かった消費税を納税しなくてはならないことだが、業者なら既に納税しているはずだし、個人売買なら通常は所得税申告が必要になるだろうからその時に納税し所得計算で控除するなどできるのではないだろうか…。

医療費や教育費に関する消費税は課税されていないが、これも例外なく課税して後から戻す方式が採れるだろう。医療機関や教育機関は閉鎖的なため特例を設けることは困難ではないし、考えようによっては効率的ともいえる。しかしながら、食料品になると例外や特例が増えることは制度自体を分り難くするうえ非効率的であり、あまり複雑な制度運用をするようなことになると不公平感も大きくなるだろう。消費税が逆進性を持つことからして生活必需品に対して税率を引き下げるとか非課税にするとかという発想を持ち込むと、食料品や住宅費・水光費などをどのようにして他の費用から区分するかが課題となる。できるだけシンプルにするなら必需品定額制戻税という方法も成り立つ。例えば、大雑把に言うと人間一人あたり最低生活費を年間120万円と決めてしまい、これに税率を掛けて戻すというやり方だ。年齢不問で一律に戻すこととし、所得税確定申告などの際に扶養家族の分もまとめて戻しを申告できることにすれば、所得税の納税額と消費税の戻り金との差額を納付または還付するだけで済むのではないだろうか。現実には、この金額をいくらに設定するか、明かにこの額を超えた場合や下回った場合にどうするか、などという問題が発生することになるだろうが、何が食料品だとかどこまでが医療費だとか個別に判断する煩わしさを考えれば定額で割り切った方が無難だろう。その上で、住宅に関しては先の住宅取得戻し税などの方法を組み合わせてはどうか。

消費税率が5%に引き上げられたとき、おかしな現象が起こった。アウトソーシングだ。
具体的には、雇用契約から請負契約への切り替え、つまり自社の従業員を退職させて外注取引として契約する手口で、消費税の控除額を増やすことで納税額を減らすことができた。リストラといわれるが、実態としては、従業員は元の職場で何も変わらぬ仕事をしている。会社の立場からは、消費税の納税額が減るだけでなく社会保険料負担も減らすことができたのだ。例えば、年収500万円の運転手一人を外注化すると、社会保険料60万円(12%)と消費税25万円(5%)で85万円の負担を軽減させたことになる。トラック運転手であれば燃料費・保険料・通行費なども本人負担となるし、そのうえ車両自体も運転手に購入させたりリースしたりして車両の管理費・修繕費を浮かすということもできる。もちろん、運転手への年間支払い高はアップするのだが、これまで500万円の経費が掛かっていてそれをそのまま上乗せして年間1,000万円の外注契約をしても、会社が85万円分の負担を減らした事に変わりはなく、運転手にとっては本来なら50万円(5%)負担すべき消費税の納税もなく、両者ともにメリットが出たようだ。今後の非課税限度額の引き下げによって運転手側のメリットは怪しくなってくるのだが、消費税率の引き上げによってアウトソーシング=労働リストラは会社に対して更に大きなメリットとなるだろう。これだけのことで従業員を解雇したり分社化する理由にはならないものの、サラリーマン飼い殺し政策とでも言うべき諸制度の見直しがなされるなら、下請工場の従業員達の切り捨て(引き下げ)に繋がる不安と裏腹に、熟練労働者の独立自営のメリットも拡大するのではないかと期待する。

2003.10.15