グチダラ制度徘徊
 

【2】

 
 

年金改革が政治課題になっている。自分が年金を貰う頃の受給額よりも、先に支払う保険料が気になってしまう。なにしろ、これまで自分で保険料など納めたことがなく、所得税も住民税も全て給料から天引きされていて、それがどれほどのものかを実感することがなかった。任意継続の健康保険料は事業主負担分を上乗せされて従来の倍額負担になるし、国民年金保険料も被扶養配偶者の第三号被保険者の免除がなくなり二人分を負担することになる。これは、私の所得税・住民税の合計を遥かに上回り、ワンルームの事務所の家賃と共益費に駐車料金を併せたより高い。年金は「世代間」の助け合いと言われるが、これは賦課方式を採っているからで、当初は積立方式を採っていたのが途中から変更されているということである。高齢者が高額所得者ということもある。会社や官公庁に非常勤で就労し、アパートや旧宅を賃貸し、老齢年金を受給するという程度なら珍しくない。それはそれでいいのだが、その年金を収入の遥かに少ない世代が負担することには素直に納得できない。

私が新卒で入社した70年代は、課長が30歳代で部長が40歳代、定年が実質50歳だった。自分が30歳になってみると定年が55歳か60歳で、課長も部長も定年が延長された分そのままの役職に留まり、当然にヒラはヒラのまま給料もそのレベルに留まっていた。その頃から私達は上の世代を養っていたんだゾ、と言いたくなる。今や、役員になってしまうと60代半ばになっても引退しないし、ヒラは40歳を過ぎても親から小遣いを貰いながら子供を養っているというのが私の周辺の風景である。「世代間」の扶養など成り立つようには見えない。

こんな中で、財政が悪化し将来の年金制度が不明瞭なまま、高齢者のために健康保険料を負担し年金の保険料を負担することを求めるのは難しい。保険料を納める側の意識からすると、積立方式に戻した方があらゆる面で分り易くなるものと考える。いまさら無理で非現実的ということでしかないだろうが、イメージとして、個々の給付に関する計算は積立方式・制度全体の財政は賦課方式、ということになる。これだと、単純に資金運用のリスクも少なく、現実に積立金が不足していてもピーク時の給付を賄うことができれば足りる。年金制度は、財政が耐え得るものでなければ制度を維持することはできないが、個々の被保険者が主体的に信頼できる制度でなければ引き出し不可能な強制貯蓄と変わらぬものとなる。

公的年金は健康保険や雇用保険などとともに「社会保険」の枠の中に位置付けられ個人の意思と関わりなく強制的に適用されている。保険として制度財政の収支バランスが重要なことは当然として、個々の被保険者のリスク或いは年金額と保険料とがバランスを維持できれば制度不安が解消されるものと考える。そうでなければ、強制的に徴収される保険料は極めて逆進性が高く税金と何も変わりのない受動的なものになる。平均寿命まで生きた時に、支払った保険料と受け取った年金がバランスしておれば、とりあえず納得できるだろう。物価変動や金利・賃金水準の変動に伴う修整をして、国庫負担も加算され、事務管理費は保険料から負担しないとなれば、損得勘定を論ずる人なら黙って加入するだろう。民営化しては成り立たないかもしれない。そうした時にどれほどの財政支援が必要なのかを知りたいのだが…。

年金制度を論じる視点は財政に偏るだけでなく、「社会保険」の枠を無視するかのように「社会保障」「社会福祉」の領域に拡散させて、生活保護や児童手当も同列に置かれる。バラマキ福祉の延長線上に社会保険料徴収システムを組み込んだようなものだ。有るなら払う、無いから払わない、気楽な丼勘定と言うべきか。もっと、一人一人の主体的な意思を汲み取って、「アメ」をしゃぶらせて貰わねば、不安と負担ばかりが表面に出てしまう。

 

【住宅取得控除】

ここまでは消費税について書いてきたつもりだが、所得税の住宅取得控除に関する私自身の情けない体験を紹介したい。初めて自宅を購入した際には突然に消費税が上乗せになり住宅ローンに苦しんでいることは分って頂いたことと思うが、更に住宅取得控除でもとんでもない勘違いをしてしまったのだ。

その頃の税制では、住宅借入金残高の1%が6年間に亘って戻されるという理解をして、1500万円の借入なら毎年15万円が戻るという計算をしたのだが、実際にはその年の私の所得税額は10万円ほどしかなく、当然のことながら控除返戻されたのはこの10万円だけだったのだ。続いて更に気分的にダメージを被った。景気回復の名目で特別減税ということがあって、所得税を20%或いは15%減税して戻すという措置が採られたことがあった。これもまた半分は騙されたような減税だった。この頃は本来なら16万円ほどの税額だったと記憶しているが、20%減税されると13万円弱の税額になりそこから住宅取得控除の15万円を差し引くと税額は0になり全額戻るのかと思ったら、16万円から15万円引いた後の一万円に20%の減税を施すということだった。実質的には住宅取得控除自体が2割引にされていたことになるのだ。15万円×6年=90万円の税が還付されるような印象を与える制度だったが、私の場合には満額の控除を受けた年は半分も無かったように憶えている。

制度の趣旨からするなら、税額の控除を契機にして住宅取得を促進することなるのだから、経済政策としては十分にその役割を果たしたということになる。しかしながら、本当にこの制度の恩恵を被っているのはやはり高額所得者ということも見えてしまう。このことは、その後この制度が拡大されて大豪邸を建築した人に十年以上に亘って減税するようなことにも現れている。また、さほど所得の無い人が中古住宅を購入するようなケースを考えると、殆どの場合には住宅取得控除は適用されないだろう。このようなことを考えると、日常生活に必要不可欠な住宅を取得するにあたって高額の税を徴収するようなことをせずに、消費税を戻すことにした方が課税のバランスがいいように思われる。考えようによっては1500万円×5%=75万円の消費税が戻るなら住宅取得控除など廃止しても似たような効果が期待できるだろう。経済政策上どうしても高額所得者のために住宅取得時所得税控除が必要なら助成金でも創設すればいい。

現行の住宅取得控除は住宅ローンを前提にしていて、ローンのない人は控除を受けることができない仕組になっている。当初は、住宅購入資金の足りない若い世代の人たちを対象とした制度だったのだろうか、アパート暮しをしていて初めて住宅を購入しようとしたときに頭金は必要としてもその気になれば家賃並の返済で自分の家やマンションを持つことができた。金利以上に給料や物価が上昇する時期には持ち家政策としても経済政策としても十分に機能していたものと考える。もちろん今でも若い世代の人が住宅を購入しようとすれば、地価は下がっているし、建築価格も下がっているし、金利も下がっているし、一頃と比べれば毎月の返済額はずっと少なくて済むし、その上さらに税額控除を受けることができるのだから有り難い税制であることに変わりはない。しかし、全ての人ということではないが、かつて住宅ローンを組んで住宅取得をした人達は今も高金利のローン返済に苦しんでいるのだし、近年このローンを活用しているのは既に自分の持ち家のある人が豪邸に立て替えたり増改築したりするケースが多いように見うけられる。

自宅のバリアフリー化など高齢化を前に準備も必要なので推進すべき要素もあるのだが、これは何も自己所有の住宅に限ったことではなく、アパート・借家でも高齢者・障害者にとってライフスタイルに合わせた改装が必要なのは同じことだろう。安全で快適な住居を確保するのは、個人が日々の生活をするための必要条件であるとともに、社会全体としてみても日常の安定性を確保するための前提となる。アパートで生活する者を遊牧民や浮浪者と同等と扱うとするならこれは定住促進政策でしかない。持ち家政策を考え直して、住む人を後回しにして景気対策・経済政策を前面に出すのでなく、素直に住宅政策として各制度を考えてはどうだろうか。簡単に考えて、住宅の新築・増改築や住宅家賃にかかる消費税の減免還付だけでも税制として十分かもしれないが、バラマキを良しとするならこれに加えて一定の工事に対する低利子融資や利子補給、或いは一定の住宅・アパートへ入居する際の敷金の無利子貸付や一部補助などを思いつく。新築・持家だけに偏ることなく、生活の拠点であり基本的人権ともいえる住居にかかる税に対して等しく軽減を図って、更に特定の施策が必要な場合には、十羽ひとからげの減税ではなく個別に審査して助成金や補助金を支給する仕組でいいのではないか。

住宅取得減税のついでに、住宅を担保にした借入のことについて考えたい。これは、ただの思い付きではなくリバースモーゲージという名称で一種の老齢年金として実現されている仕組のことだ。逆抵当と直訳される。
通常の住宅ローンは、金融機関から必要な資金を借入れて自分の住宅を購入して居住し、同時に担保として自己名義の住宅に抵当権を設定して金融機関に長期に亘って返済を続けることになっている。自己の住宅を所有しない人にとっては、家賃を支払いながら並行して住宅資金を積み立てることと比べると、同程度の規模の住居なら住宅支出を二重に負担しなくて済むので有効な選択となる。これに対して、リバースモーゲージは名前の通りで、この反対のことをやる。自分の家に住みながら死後に自分の家を売る約束をして、この代金は生存中に長期間に亘って少しづつ受け取るようなことになる。具体的には、自宅に抵当権を設定して融資を受け、その資金で年金保険を購入して年金を受給し、死亡時に抵当権を実行して返済精算する、というような組立になる。返済期限(死亡時期)が不確定なことと返済時の価格が不確定なことにより、融資限度額の決定が難しく割引利息も幅が大きくなるので、融資額は多少のリスクを抱える分だけ押さえられるが終了時に余剰分を精算することもできる。そして、精算時に不足分を請求しないことで、年金として機能する。実際には、融資の全てを年金に廻すのではなく一部を一時金として受け取ることも可能だし、融資枠を確保して必要な額だけを引き出すことも可能になる。また、年金も終身年金に限らず定期年金を購入することも選択可能である。現在の価格が2000万円のマンションを抵当に入れて1000万円の融資を受け、20年の定期年金を購入して50万円の年金を受け取るなら、公的年金150万円と併せて200万円という計算ができる。いずれにしても、長い期間かかって取得した住宅の資産価値に着目して、この資産を何年もかけて取り崩すイメージだ。

このリバースモーゲージはまだほんの一部でしか定着していない。意識の問題と制度の問題と、ともに受け入れ難い面が幾つかあるようである。
住宅以外に多くの資産を保有する人にとっては、資産を売却するのは差益を生ずるからであり、資産は何らかの運用によって収益を生むものであって、借入金だけが残る住宅融資は何の魅力もなく愚かなことかもしれない。世間体からしても、死んだ時には自宅まで抵当にとられて借金だけしか残っていなかったというのは、一見、好ましからざることのように映るだろう。ただ、住宅が唯一の財産と言わざるを得ない人にとって、家を売った金で有料老人ホームに入居するよりは住み慣れた家に住み続けることは価値あることなのだ。そして、既に独立して別居している子供達が主の居ない住宅を相続しても、これを改装して賃貸しするか売却するかしかない。普通なら親の家がなくても子が生活に困ることはないのだから、親は預金を取り崩すのと同じように自宅を生活費に充てて差支えないことであり、必要なら子は親の借入金を返済して相続したり親の家を購入したりすることもできないことではない。また、個人の合理性とは別のところで、親から子・子から孫へと財産を増やし次々と引継ぎだんだんと家や社会が繁栄するという考えがあるように思われる。相続税や贈与税の減税などはこの流れに乗ったものだろうか。一部の特定の人に富を集中させ保護を加えるるのはこの国の基本政策となった。親から贈与された金なら110万円まで非課税なのに、事業所得だと38万円の基礎控除しかない。富を受け継ぐ者には価値があり、自らの資産を食い潰す者は無価値ということか。

バラマキ年金の財政が悪化してきたことが表面化したため財源を税に求め、それは薄く広く逆進性の強い消費税こそが相応しいという。資産を有しながら消費税を原資とした年金を受給して無税または低税率の贈与を繰り返し、そのうえ相続人は相続税を支払うために資産を処分するのは理不尽と訴える。バランスが悪くないだろうか。リバースモーゲージに限ることでもないが、せめて、資産のある人は自己の資産を年金化することで公的年金の受給を減額して財政を助け、見返りとして住宅の譲渡所得課税や住宅の相続税課税を軽減するようなことができないものかと考える。それ以上に、税制上効果的と思われるのは相続・贈与に際して年金の財源とするための課税措置と免税措置を講ずることかもしれない。そして、税を財源とする年金なら、資産家と無産者の給付額に差があったとしても掛金とのバランスを問題にされることもなくなる。もっと単純に考えるなら、財産は有っても収入が無い高齢者は多く、存命中は年金給付が唯一の収入となるが、死亡時にはそれなりの財産を遺していくことになる。

年金の給付に関しては収入とか所得とかを受給の要件とせずに掛金に応じて保険数理に基づいた計算により給付されるべきものと考えるが、年金を受給したことによって財産が遺されたとするなら相続税の減免ばかり騒ぐよりも相続財産を年金財源に還元することも考えていいのではないか。年金財源として想いつくのは、退職金もまた高額の控除が認められているのだが、このあたりも保険料徴収の対象として悪くもないように思われる。中小企業では役員も含めて自分の退職金が実際に貰えるのかどうか意外とリスキーなところがあって、会社が倒産したり合併したりすると退職金を受給できなくなることもあるし、退職時の景気の良し悪しによって退職金の減額や割増もあり得る。公務員や大企業の従業員からは反対されるだろうが、運良く退職金を受け取った人から年金の原資の分け前を頂くこともいいだろう。

住宅取得控除に戻って考えると、新築住宅のための借入額にばかり重点を置いた経済政策優先の税制ではなく、生活必需品には消費税を課税しないという観点から消費税の戻し税を実施することで、「住宅」は取得し易くなる。そして、住宅の「取得」だけでなく「売却」を視野に入れると、住宅の資産価値に着目したリバースモーゲージが相続税減税政策や年金政策を考えるとき効果的と思われる。年金制度については別に考えることにするが、高齢者にとって住宅は高価な資産であり、そこに住みながらこれを流動化して生活費に充てることは、次の世代に相続財産を遺すことよりも社会的な価値は高いことと考える。また、自動車と同様に、住宅は購入時のイニシャルコストは当然として、その維持管理にもそれなりのランニングコストが発生する。新築・持家を大前提にしているとしか看受けられないのはこの国の税制だけなのか住宅政策そのものなのか。古い家は早く壊して建て直せ、借家暮らしは不自由なもの我慢するのが当り前、ということか。消費税の逆進性を緩和する機能を考えると、所得税の住宅取得控除は棄てて、住宅の新築や修繕の消費税の戻し税、さらにアパートや借家の家賃の消費税の戻し税を実施した方がマシかもしれない。

2004.1.5
to be continued.....