グチダラ制度徘徊
 

【3】

 
 

しつこい風邪だと思いながら残業を続けているうちに咳と発熱がどんどんひどくなり、写真と血液検査の結果、肺炎と診断され1週間の入院点滴を含めて3週間ほど抗生剤の投与を受けた。ローンに追われる身には、その突然の治療費数万円は大きな負担だが、同時に健康保険の有難味も痛感する。自己負担が3割だから治療費総額は20万円ほどになったのだろうか。入院中は快適なベッドでアイシングしながら三食とも腹いっぱい食ってはいたのだが、それでも、一日1万円を超える治療費の高さには改めて驚いたというか呆れるほどだ。
入院したのは大学を卒業してから初めてのことだし、自分で健康保険のお世話になったのも久し振りのことだ。健康保険料の本人負担分の一年分以上を一度に使ってしまったようだ。家族の保険医療もあるのではっきりとは分らないが、給料から引かれている健康保険料と同額を会社も負担していることを考えると、おそらく、これまで二十年以上の間に支払った保険料よりもお世話になった医療費はかなり少ないだろうと思われる。もちろん、病院のお世話にならずにずっと居られればそれにこしたことはないので、健康保険料の負担に見合った保険医療の給付を受けなかったからといって損をしたという意識は持っていないし、むしろ、何かあったときのために多少の保険料は負担してでも健康保険証は何とか確保しておきたいというのが素直な気持だ。このことについては、私だけではなくて多くの人が似たようなことを考えていると思われる。
サラリーマンは給料から保険料が天引きされているので意識することは少ないかもしれないが、国民健康保険に加入しているような人であれば、国民年金の保険料は滞納しても、健康保険料は遅れてでも支払うという心理が働くようだ。(実際には、国民健康保険料の滞納も増えてきて、保険料を完納するまで正規の保険証を交付しない自治体も現われてきたそうだ)そして、中小零細企業では従業員に保険証も交付できないようではみっともないということで、健康保険制度に加入するためにやむなく厚生年金制度にもパックで加入してしまったというところも多いだろう。当然の帰結として、健康保険では保険料によって医療給付に差が生ずることはないため、保険証を交付することだけが目的なら保険料は安い方がいいに決まっているので、いまだに保険料をごまかす企業もある。それでも健康保険証は必要とされる。
この有り難い健康保険制度だが、昨年(03年)4月に給付の引き下げと保険料の引き上げが行われた。給付の引き下げについては、これまで本人2割の負担を3割にするなど、広報もされたしマスコミでも取り上げられていたのだが、保険料の引き上げについては公然且つ無断とでもいうべきか、何の説明も無く当然のことのように進んでしまった。情けないのはマスコミで、当局が給付の見直しを広報するとそれだけを取り上げ、厚生年金の保険料徴収方法の見直しを広報するとそれだけを取り上げ、ドサクサに紛れての事なのか当局とメディアが結託した事なのか分らないが、電卓を叩くまでもなく気がつく筈の健康保険料の大幅な引き上げをマスメディアはまともに取り上げなかったのだ。
どんなことかというと、厚生年金の保険料の計算にあたって総報酬制と称して毎月の給料だけでなく賞与からも保険料を徴収するということで、毎月の給料に掛かる保険料率を引き下げて賞与には同率で新たに保険料を掛けて、年間でならすと保険料総額がほぼ変わらない程度に設計し直したというものだ。厚生年金はこれで良かったのだが、健康保険もこれに便乗して総報酬制を採り入れ、保険料率を殆ど引き下げることなく賞与からも保険料を徴収することにしてしまったのだ。ひとことで言ってしまうと、賞与に掛かる分だけ保険料が高くなったのだ。でも、この先が分らない。高くなった保険料はどこへ行くのだろうか。
保険給付自体は下がったのだから、ここでも保険料は浮いてくる。医者や病院が増えたので、全ての医者にこれまで以上の生活を保証するために使われるものでもないだろう。いくら景気が悪いからといって保険を使って病院で生活する病人が急に増えるわけでもないだろう。生体実験のような高度医療が必要な患者のために保険料を廻すこともないだろう。介護保険制度を創出して、医療と介護を分離し介護のために医療費を使い込まないことにするという説明があったのはついこの前のことで、この時も健康保険料を引き下げて介護保険料に廻すものだと誤解させられた。
無くてはならない健康保険制度を疑いたくはないが、足許を見透かされて、幾ら保険料を上げても保険証を放り出す者はいないだろうと好き勝手されているようで、これが当り前になってしまうのは心寒い。

 

【源泉徴収】

サラリーマン生活をしていると、普段は確定申告など全く必要なく、自分の確定申告をしたのは住宅取得控除の申告をしたのが始めで最後といっていい。2年目からはまた年末調整で住宅取得控除が終わってしまう。確定申告しなくても年末調整で全てが終わってしまうというのは、便利といえば便利、といえる。しかし、自主申告を建前にしながら会社が申告・納税の全て最後まで面倒を見るというのもサラリーマンを馬鹿にしているような気がして仕方がない。勿論、自主申告したければ勝手に自分で申告すればいいというだけで禁止も制限もされてはいない。ただ、事業主には所得税を源泉徴収し納付することは義務付けられているし、年末調整も当然のこととして計算させられているし、実際には年末調整の計算間違いや扶養者の間違いなどについても調査・修正して徴収・納付することまでもやっている。
私の思いつきになるが、年末調整など止めてしまって、事業主に対する義務としては定率の源泉徴収に留めてはどうだろうか。徴税のコストを考えると給料からの源泉徴収システムは棄てがたいように思えるし、支給額に対する定率控除かせいぜい甲欄・乙欄程度の区分なら企業の負担はさほど大きくないだろう。可能なら地方税(住民税)も給料所得に課かる分については同様にして同時徴収して後から精算した方が二重に課税計算しなくてスッキリと済みそうなのだが…。事業主の立場からするなら、納めっぱなし、給料支払いの際に定率の税額の控除計算をして納付すればそれで終わりということだ。税務当局にしても、事業主が確定申告する際に給与総額と徴収税額を簡単に照合できるだろう。従業員の立場からするなら、会社や上司に対して住所・氏名・生年月日くらいは届出が必要として、それ以外に配偶者・家族構成やら職業・収入やら場合によっては身体や精神の障害等級や離婚歴やローンの残高までを届け出るようなことは必要でなくなる。

会社への届が必要なくなっても、会社が年末調整をしなくなれば、従業員が自分で確定申告の手続をする必要がある。週48時間労働で墨書算盤計算の時代に無知な賃金労働者が税務署の窓口に押しかけることを想定したなら不安があったかも知れないが、今日現在、既に週休二日制にパソコン・インターネットが当り前となっているのだから、税理士の助けなど借りなくても殆どのサラリーマンは税の還付を受けることができるようになるはずだ。更に、申告期間を一月中旬頃からに早めたり土曜日・日曜日にも相談窓口を設けたりできれば申告相談の集中は緩和されるだろうし、制度面からは複雑怪奇な税制をできるだけシンプルにすることで窓口での申告が必要になるのは僅かの人に限られてくるだろう。
自分の事を考えると、申告すれば年末調整と同様に還付されることが分っているなら、申告が遅れれば還付が遅れることは当り前だから正月休みに申告の準備をしてしまうかもしれない。その時に不安になるのが複雑怪奇で朝令暮改ともいえる税制だ。何とか特別控除だとか何とか特別減税などと後で分ると申請しなかったことで損したような気がするものが多いが、こんなものは全て無くしてしまっていいのではないだろうか。住宅取得控除なら消費税の非課税部分還付の方が現実的だし、政策的にどうしても高額所得者に対する税額控除が必要なら税と切り離して、高額所得者のための特別補助金・特別助成金として自治体から交付する方が目的としても明確になるものと考える。

給料だけでなく、利子や配当それに講演料や報酬料金などにも源泉課税されているが、事業主に大きな負担を掛けることなくきちんと納付されているならうまい制度かと思う。ついでながら、フリンジベネフィットに対しても源泉課税をしてみてはどうかと考えることがある。
福利厚生費や教育研修費あるいは交際費や広告宣伝費に対する課税を想定してのことなのだが、大企業と零細企業とでは給料の格差だけでなくこのような経費に携わる恩恵が極端に違っていて、見方によっては公務員や大企業従業員に大減税措置がなされているのと同じこととも言えるからだ。ひところは社用族という言葉まであった交際費から考えてみると、その性格上、担当者や相手先を比較的特定しやすく金額も明確なものが多く源泉徴収し易いものではないだろうか。飲食であれば総額を担当者・相手先あわせて人数割して、住所氏名が特定できる者について20%程度の率で源泉課税して年末に源泉徴収票のようなものを交付し、不特定であれば50%程度の率で源泉課税して納税し、徴収票を交付された者は雑所得か何かで確定申告して精算調整することができる。住民税は所得を加算して納税ということになるだろう。贈答なら自社の担当者に課税することもないだろうから、そのまま相手方に20%の源泉課税ということでいい。相手先に税負担させられない場合は50%源泉課税を選択することも考えられる。
現行の法人税制は原則的に交際費を経費としては認めていないというか、申告にあたって損金不算入という取扱をするため、支出した交際費は課税の対象になってしまう。そんなことするよりも、法人が事業を遂行するにあたって必要があって実際に支出した交際費は経費として認識し、現実にその交際費で利益を受けた人に対して課税するのが当然という考えだ。これで企業の交際費支出が減るのか増えるのか想像できないのだが、業務命令として接待を指示されたとしてもゴルフコンペや宴会の参加費用は個人負担すべきもので必要ならその分は給料として支払を受けた中から支出すればいいことだから、交際費支出の増加を嫌うなら給料(賞与)として支給し課税するのも一つの方法かと考える。また、簡単な飲食など担当者同士の個人的な付き合い程度に留まればポケットマネーとして給料に上乗せすれば済みそうだ。
ただ、必要かどうかは別として、高額な飲食接待などによる相手先の利益まで自社の従業員の給料というのも無理があり、しかも接待の相手先を個人ではなく法人の機関として捉えることを認めると所得税の源泉徴収という考えも成り立たなくなるかもしれない。これに無差別50%課税という訳にもいかないだろうから、35%程度の源泉課税して相手先法人に益金計上を求めた上で所得税還付ということにでもなるのだろうか。私自身の個人的な感覚からすると、出きる限りの所得は個人に還元させ帰属させるべきで、法人に帰属する所得は限定させて法人が自ら勝手に太ることなく、限り有る時間を生きている生身の個人の所得を法人に出資するなどして法人は成長するべきものと考えている。その意味から、法人同士の交際費というのは何とも薄気味悪く余り深入りしたくない領域だ。

教育訓練費や研修費に対して税金を源泉徴収するなど、考えたこともない人が多いことだろう。無理やり研修を受けさせられたうえに課税されるなど、とんでもないというのが普通の反応かもしれない。このあたり、少し言い訳が要るだろう。
実は、零細企業に勤めていると研修などというものは殆ど無いのだ。交替要員のいない最前線で消耗戦を強いられているようなものなのだ。教育訓練は前任者による短時間のOJTのみで、労働基準監督署の安全指導が厳しい危険業務でなければ資格訓練も必要なく、必要な武器は自分で揃えて自分の身は自分で守るしかなく、言わば自己管理のできる即戦力として勝手に好きなようにやって結果はちゃんと出せということになる。それでは、仕事に必要な知識や情報をどこから仕入れるかというと、上司からの指示もあるが取引先や昔の同僚からというのも少なくないようだ。
零細企業の従業員は流動性が高く、組織的ではないがそれなりにネットワークもあって、スキルアップしたり喧嘩したりしながら転職を重ねている。料理人の修行みたいなもので、会社の組織と別の人間関係で仕事をしていて、一定の範囲ではそれなりにこれは機能している。ただ、新たな技能を身につけたり資格を取得したりしようとするとこのネットワークは情報収集にしか役に立たない。事務員が役所の説明会に出席するぐらいなら勤務時間中に行って来ることもできるが、一日がかりのパソコンの講習会なんかだと欠勤扱いにされて当り前だ。会社から受講の指示が出されることは無いので、有給休暇を申請しても皆勤手当はしっかり控除されて、受講料はもちろん本人負担だ。長期の講習を受講しようとすれば、一旦は退職して、再就職の口を探すことになる。
厳しいといえば厳しいが、考えようによってはこれが本来の姿と言えなくも無い。何もかも全てを会社に頼る必要も無いし、会社と距離を置いて仕事をしてこそ一人前と思えなくも無い。社内研修で全てを包み込まれてしまっては悪事も働かざるを得なくなりそうだ。そんなことなら、社内研修も社外研修も零細企業と同列にしてしまって、研修費はもちろんのこと研修旅費なども全て受講者の利益として認識して所得加算し、これを課税対象にした方が大企業従業員とと零細企業従業員との格差を縮小することができる。公務員の天下りが問題視されることが多いが、実務者レベルで天下りが行われるのは顔やコネだけでなくて実際に役所のOBはそれなりの知識もあるし仕事もできるからだ。そのキャリアは様々の研修に裏打ちされていることと考える。その研修を給料をたっぷりと受け取りながらタダで受講できるなど、なぜ誰も「現物給与」とこれまで言わなかったのだろうか。所得額の算定には若干の問題は残るかもしれないが、源泉徴収するには都合のいいものと思われる。

フリンジベネフィットといえば福利厚生費を思い浮かべる。この福利厚生費もまた大企業と零細企業とで官と民とで大いに格差の有るところだ。賃金や労働時間と並んで福利厚生は労働条件の一部であり、これが殆ど非課税になることで、見かけ以上に労働条件の格差が拡大されてしまう。零細企業では健康保険や厚生年金にも加入していないところも珍しくない。まして、いつでも簡単に診察や相談ができる医療施設やタダ同然で全国各地で利用できる厚生施設、民間の安アパートよりは遥かに立派な従業員寮にメニューもボリュームも申し分の無い従業員食堂など、家賃を滞納してサービス定食ばかりの生活をおくっている人には想像さえできない利益供与だろう。福利厚生さえ充実していれば、零細企業並の低賃金でもゆとりの生活ができそうだし、それだけでも会社から離れて自立するのが嫌になってしまいそうだ。
この福利厚生については現物給与という考え方である程度は源泉課税されることになっている。しかし、実際にはその把握が難しいし評価も簡単ではないのだろうが、何とかバランスをとることを考えられないかと思う。例えば家賃、普通にアパートに住んでいれば幾らかの家賃を支払っているし、社宅に住んでいても幾らかの負担を求められるが、そこにはかなりの開きがあるようだ。敷金・礼金はもちろんのこと毎月の家賃も格安というのが社宅入居のメリットで、入居できない場合にはそのままデメリットとなる。その差をそのまま所得の差と捉えるのか、会社が経費とした分だけを何らかの方法で受益者に割り振るのか、面積等を基準にして一律に加算するのか、あまり納得できる利益評価はできないかもしれないが、何か考えたいところだ。
もっと問題なのは、仕事の都合で転勤や単身赴任したようなケースで、短期の移動なのか長期の出張なのか、住居の利益をどこまで所得として把握すべきか、個人的には、一旦は収入として源泉徴収したうえで確定申告の際に必要な分だけを経費として控除できればいいように思う。同様に健康保険料・厚生年金の会社負担の保険料も、直接いま現在ではないにしても将来において本人が利益を受けるのだから、給与収入として認識すると同時に社会保険控除額にも加算することで、個人事業者ともバランスがとれるものと考える。

2004.2.17
to be continued.....