No.9 
 
 

Pat Martino/Footprints

 
 

1.The Visit
2.What Are You Doing The Rest Of Your Life?
3.Road Song
4. Footprints
5.How Insensitive
6.Alone Together

 

Pat Martino(guitar),Bobby Rose(second guitar),Richard Davis(bass), Billy Higgins(drums)

Rec.Date: March24,1972

記憶喪失というハンディを乗り越え、「奇跡のカムバックを果たしたギタリスト」と呼ばれるPat Martinoですが、一般リスナーよりはギター・プレイヤーの間で有名なのかもしれません。最近まで彼の日本での人気についてはまったく知識がなかったのですが、彼のリーダーアルバムの国内盤が99年に4枚まとめてCD化され(これはその1枚)、各アルバムに一曲ずつスコアがついているということは、ジャズギター・ファンの間では十分人気が浸透しているのだろうと思います。彼の2000年12月録音のオルガン、ドラムでのトリオでのアルバムも、グルーヴ感あふれる演奏ばかりで、魅力十分ですが、この"Footprints"(元のアルバムタイトルはThe Visit)もまた、いつまでも聴き続けたくなる作品です。

一時期、このアルバムのLP盤のA面ばかりを聴いていたのですが、その頃はWes Montgomeryの代表曲という3曲目の"Road Song"が特に気に入って、ほとんどやみつきという状態で聴きました。最近、CD盤を買って聴きなおしたところ、タイトル曲の"Footprints"をちゃんと聴いていなかったことに気づき、陰影を刻むかのようなRichard Davisのソロ・パートをじっくり聴きました。いかにもWayne Shorterの曲らしく、薄闇と薄明かりの間を行きかうような印象があり、静かな緊張感に満ちています。Richard Davisの演奏は、こういう癖のある作品で、独特の輝き方をするように思えます。

カルロス・ジョビンの名曲、"How Insensitive"でのMartinoの演奏は、切なさも程よく、感傷の深みに落ちることはありまません。この穏やかな曲を弾きながら、作品と勝負している彼の姿勢が伝わってきます。
 ギタリストの覚醒と集中力を感じつつ、同時に「酔いしれる」ギターの魅力も伝わると言えば、ちょっとほめすぎになるかもしれませんが、Pat Martinoはそういうギタリストと言ってよいでしょう。

(2003年2月 岡崎凛)

Holding Back The Years/
Jimmy Scott

1.What I Wouldn't Give
2.The Crying Gam
3.Jealous Guy
4.Holding Back The Years
5.How Can I Go On
6.Almost Blue
7.Slave To love
8.Nothing Compares 2 U
9.Sorry Seems To Be The Hardest Word
10.Don't Cry Baby

Jimmy Scott(vocals),Pamela Fleming(trumpet),Bruce Kirby(sax),Matt Muniseri(guitar),Michael Kanan(piano),Hilliard Greene(bass),Victor Jones(drums),Gregorie Maret(harmonica),Charles Coleman(string arrangement),Susan Aquila,Hye Kyung Seo,Wayne Graham & David Gotay(string quartet)

(Released in 1998 in the US)

歌手生活をほぼ引退した人生を送っていたジミー・スコット。その類稀な才能を再び披露するチャンスを彼に与えるべく尽力した人々。その努力が実り、彼は70歳代になってから続々とアルバムを発表する…

渡辺亨氏のライナーノートを読んでいると、彼を食い物にした過去の音楽業界(他でもよく聞きますが、サヴォイのオーナーは極悪人だったらしい)の腹立たしい話や、ステージから長く遠ざかっていた彼を応援した人々の人情味溢れる話、などなど、彼にまつわるエピソードは尽きないようです。

こうしたエピソードと一緒に彼を売りこもうという、今の音楽業界の思惑通りに、彼のアルバムが売れたのかどうかは知りません。しかし、ネット上でも彼のアルバムは紹介され、あれだけのCDが売り出され、何度も来日公演が行われているのですから、彼の人気は本物なのでしょう。

人に教えてもらい、初めて彼をテレビで見て(ピーター・バラカンによるインタビューも)、その歌を聴いたとき、これはあまり素人向きじゃないな、と思いました。高めの声ですが、意外に女性的ではありません。歌い手の存在感が強すぎ、ワイン片手に聞き流すにはやや不向きです。ジミーは芸術家気取りのないエンターティナーなのですが、その歌を聴くと、楽しいというより、もの思いに耽ってしまうのです。

そんな印象のまま、このアルバムを聴きました。ロック・ポップスのヒット曲のカバー集ですが、やはり圧巻は、アルバムタイトル曲の"Holding back the years"でしょう。

感情をためにため、少しずつ溢れ出させる歌い方は、彼だけがやっていることではありませんが、彼のコントロール技術に圧倒されます。静かにテンションを高め、溢れさせる声に、わざとらしい脚色はありません。歌詞の誘う感傷を押さえ、共感しつつもそれに酔うことのない歌。

そこに例の、彼にまつわるエピソードを重ねることはできますが、結局そんなものは挟雑物にすぎないと思えてきます。人生の辛酸が彼の歌の技量を高めたというような説明など、彼の歌には不要で、ただ歌だけを聴けばいいのだと思います。

彼の歌は、こちらのテンションも彼に合わせないと、味わうのが難しいと思います。しかしこのアルバムは、ジョン・レノンの"Jealous Guy"のような明るい曲も取り上げ、誰にとっても聴きやすい曲を多く取り上げています。ときにピアノがレッド・ガーランド風になるなど、伴奏にアレンジのセンスが光ります。

彼のように音楽業界の拝金主義の犠牲になったミュージシャンは、どれだけいるか分かりません。彼の現在の活躍ぶりに拍手を送りたいと思う一方で、日本や米国の大手レーベルの状況を見るにつけ、ミュージシャンの自由な創作活動を阻んできた音楽業界が、これからもその体質を変えることもないだろうと思うと、やるせない思いが募ります。

(2003年2月 岡崎凛)



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