No.10 
 
 

Kei Akagi/Paletteケイ赤城/パレット

(VACV-1040)

 

1.Heart of Palms
2.Lazy Bird
3.Needle Play
4.Day's End
5.Stick Figures
6.Autumn Past
7.Elsinore
8.You Don't Know What Love Is
9.Once Upon A T
10.Here's To Life

Kei Akagi《ケイ赤城》(piano)
Tomokazu Sugimoto《杉本智和》(bass)
Tamaya Honda《本田珠也》(drums) on track 1,2,3&9
Nobuyoshi Ino《井野信義》(bass)
Hiroshi Murakami《村上寛》(drums) on track 4,5,6&7
Kosuke Mine《峰厚介》(t.sax & b.cl) on track 4,5,8&9

Recorded in March 2001 at Sony Music Studios Tokyo

このアルバムを初めて聴いたときは、あまりの衝撃に言葉もなく、ただ圧倒されるだけで終わってしまいました。このピアニストを名前しか知らずにいたとは、随分ぼんやりしていたと思うことしきりでしたが、こうした発見や出会いはまだいくらでも起きそうです。
ただ、あまりに技巧が勝ちすぎる印象もあり、2度目に聴くまでに間が空きました。全く無駄がなく、彼の世界がぎっしりと詰め込まれた作品であり、ややリラックスして聴けるのは、8曲目の峰厚介(バス・クラリネット)とのデュオと、最後のピアノソロぐらいで、全体にぼうっと聴けるアルバムではないと感じたのです。ところが、2回目に聴いた後は、彼のオリジナル曲(とくに1、3)にすっかり魅了されてしまい、それからは何度も聴くことになってしまいました。とにかく、こんな輝き方をするピアノ演奏に出会ったのは初めてです。
全く個人的な印象に過ぎないとは思うのですが、自分がかつてChick Coreaの'Now He sings, now he sobs'を聴いたあと、ずっと彼の音楽に、まったく身勝手に求めていたものに、このアルバムの1曲目で出会えたような気がしたのです。ケイ赤城をChick Coreaと比較するつもりはないのですが、とにかく、'Now He Sings, Now He Sobs'を聴いていなければ、自分がこのアルバムにこれほど引きつけられることはなかったと思うのです。ピアニストの思いや意図は全く別のところにあるとしても、リスナーはそうした個人的思い入れから自由になることはありません。
しかしこのアルバムの素晴らしさは、自分の個人的な思い入れなどとは全く無関係に成立するものだということも、徐々に実感するようになりました。このピアニストの、屹立する山のごとき存在感、こわれものを包み込むような繊細さ、流麗さに逃げない潔癖さに触れるとき、彼の輝かしい経歴を聞く必要もなく、賛辞を捧げてやまない気持ちになります。
ただ、アルバム全体を俯瞰するとき、二組のべーシストとドラマーを使い分けたことについて、気になることがあります。二組とは、若手ながら実績もあり、独特の手法でピアニストをサポートする杉本・本田組と、日本のジャズ界で、常に先鋭的な演奏活動をしてきた井野・村上組です。非常に個性的な二つの組み合わせを両方楽しめるとも言えますが、正直な意見を言えば、それぞれのトリオでのアルバムを作ったほうが統一感を維持できたように思うのです。ただし、ライナーノートのケイ赤城のコメントには、「自分の音楽のいろいろな側面を異なる顔合わせのユニットで様々に表現してみたかった」とあり、その意図は見事に実現されています。そちらに重点があるなら、あまり統一感にこだわらないほうがよいのかも知れません。緻密に織り上げるような演奏もすばらしいのですが、それぞれのプレイヤーがしばしの逸脱を楽しんだ後、また一体化していく面白さも格別です。
本田珠也のドラム、杉本智和のベースは、すでに菊地雅章の'On The Move'を聴いていたので、この二人の参加によってどれほどスリルに満ちた作品が生まれるかは容易に想像できました。全神経というより、全感性を使って、ピアニストをサポートしています。
4〜7曲目までの村上寛と井野信義には、聴く前から信頼感が先行してしまいますが、やはり演奏は期待通りでした。村上寛のドラムについては、ライナーノートにも指摘ある通り、5曲目のひねりのきいた辛口な作品がファン必聴でしょう。また、井野信義のベースソロの色合いはいつも独特で、渦巻くような激しさが訪れる一瞬が魅力です。
8曲目で峰厚介のバス・クラリネットの伸びやかな音を聴くと、精緻な世界がソフトフォーカスされ、ほのかな光に包まれたような印象を受けます。ここにこの曲、'You Don't Know What Love Is'を選んだアルバム構成のセンスにも、思わずにんまりしてしまいます。
ケイ赤城はこの6月にニュー・アルバムを出すということですが、今後益々活躍を期待したいピアニストです。

(2003年5月 岡崎凛)

Rene Thomas/
Hommage a...Rene Thomas

(Timeless CD SJP 398)

1.My Wife Maria
2.Jesus Think of Me
3.Star Eyes
4.'Round about Midnight

Rene Thomas (guitar)
Rob Franken (e.piano)
Koos Serierse (bass)
Louis Debij (drums)

recorded on Feb.21,1974
at De Boerenhofstrede,Laren,Holland

ベルギー出身のギタリスト、Rene Thomas(ルネ・トーマ)は1927年生まれ、75年1月に心臓疾患で死去。このアルバムは彼の晩年の作品で、軽やかなRob Frankenのエレクトリック・ピアノがこの頃の雰囲気をよく伝えています。
ベースのKoos Serierse、ドラムのLouis Debijについては詳しい資料がありませんが、名ギタリストのサポートをこなすにとどまらず、好演奏を聴かせてくれます。会場であるオランダのライブハウスの大きさも分りませんが、店内の和やかなムードが演奏とともにじんわり伝わってきます。
ライナーノートによると、この「貴重な」録音テープはタイムレス・レコーズが「掘り出した」とあります。Rene Thomasの晩年作というだけでも貴重なのでしょうが、派手さはありません。レコーディングを意識している様子はとくになく、全体にリラックスした雰囲気で演奏が続きます。
多くの著名ギタリスト同様に、あふれ出る音からは、妥協ゼロの厳しい姿勢が伝わってきます。その一方で引き込まれるようなソフトで滑らかな音を聴かせ、非常に聴きやすくもあります。一部のギター好きだけでなく、広範囲のリスナーが楽しめるアルバムでしょう。
このアルバムは、タイムレス・レコーズのサイトの試聴後すぐに注文したのですが、それまでこのギタリストの名前さえ知りませんでした。ジャズ批評ギタリスト大全集VOL.2を読んでみると、村上智一氏の詳細な紹介がありました。これによればRene Thomasは、「ジミー・レイニーをすみずみまで研究、模倣」したギタリストなのだそうです。ここで紹介されていた'Guitar Groove'等の作品はまだ聴いていませんが、彼の初期作品であるVogue盤'Rene Thomas Quintetを聴くと、時代の変化はあっても、当時の彼の音色が晩年作品にも変らず生きていると実感できます。(なお、岡村融氏のライナーノートによれば、トーマでなくトマが正しい発音だそうです)
アルバムの圧巻は、やはり最後の'Round About Midnight'でしょう。じわじわと緊張感が高まり、高音部に突入するかと思いきや、そんな安易な展開にはなりません。饒舌になることをあえて拒むような、静かな演奏。このギタリストはおそらく、何度となくこの曲をステージで演奏し、その度に何かしら新たな変化を加えてきたのではないでしょうか? 甘い感傷を見事に解体する厳しい姿勢は、そのままこの曲への賛辞になっているようです。
彼やRob Frankenに限らず、ヨーロッパ中心に活躍するジャズ・プレイヤーについては、実力相応の情報量はありません。ヨーロッパのジャズを知るにつれ、これまで全く知らずにいた実力派プレイヤーの層の厚さに唖然とします。その中ではRene Thomasが著名人扱いになってしまうということは、日本に入ってくる情報がいかに限られているかを物語っているのです。
自分自身、ヨーロッパのジャズについては、やっと入り口が見えたというところですが、日本のジャズと同じく、もっとファン層が広がることを願っています。

(2003年5月 岡崎凛)


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