No.11 
 
 

Blue Wail/Uri Caine Trio

 

1.Honeysuckle Rose
2.Loose Trade
3.the Face of Space
4.Digature of the Line
5.Blue Wail
6.Stain
7.Sweet Potato
8.Bones Don't Cry
9.Poem for Shulamit
10.Fireball
11.Honeysuckle Rose

Uri Caine(piano)
James Genus(bass)
Ralph Peterson Jr.(drums)

recorded on Dec.1&2,1997 at Avatar Studio NYC
Winter&Winter 910 034-2

すでに紹介したアルバム、The Philadelphia Experimentで初めて知ったピアニスト、Uri Caine(ユリ・ケイン)のトリオ作品です。こちらはアコースティックのみのジャズ・トリオで、9曲連続のUri Caineのオリジナル曲を、'Honeysuckle Rose'のピアノソロで挟む形をとっています。
ドラムは、非常に表情豊かで、つねに先鋭的な演奏を聴かせてくれるRalph Peterson Jr.で、ときにはピアノやベースを盛り立てるというより、自己のスタイルを貫くこととチームプレイの狭間で、のるかそるかの戦いをしているような印象さえあります。いや、実はそういった調和崩しの展開にこそ、綿密に作られたシナリオがあるはずなのですが、アドリブか否かのボーダーラインについて考えても分からないことなので、ただスリルを楽しむだけにしたいと思います。とにかくこのアルバムで、絶えず緊張感を支えているのが、彼のドラム演奏だと言ってもいいでしょう。
ベースのJames Genusの役割もまたきわめて重要です。ときにソロパートも、ドラムと向き合う真剣勝負もありますが、前面に出る機会はさほど多くはありません。上昇しもつれ合うピアノとドラムの底流で陰影を刻むかのようなベースは、最初、淡々と役どころをこなす職人芸のように思えました。しかし何度も聴くうちに、だんだんと演奏者の体温に触れるような音が聴こえ始め、饒舌になりすぎない渋い持ち味に魅了されるようになりました。特に聞き逃せませないのが、2曲目(トリオとしてのオープニング)、よじれによじれた変化の先に、それをさらに進展させたベース・ソロです。
リーダーであるUri Caineについて語るのが最後になりました。歯切れのよさと卓抜したリズム感に、思わずまたHerbie Hancockと比較してしまいましたが、よく聴けばかなり違いがあり、案外粘りとしつこさも加味されています。
ラテン風味の曲のこなし方も見事ですが、このピアニストの才能は、陰影に富んだ、自らをねじれ位置に誘い込むような曲で、最大限に現れるように思います。たとえば6曲目(これもWayne Shorterと組んでいた頃のHerbie Hancockを連想する曲)での演奏は、複雑怪奇なメロディーに突入後、明暗の変化の中を軽やかに駆け抜けてゆきます。
その一方で、優しさと冷徹さが交錯する3曲目をはじめ、随所できらめく優美な演奏も魅力的です。水辺の光を連想する9曲目は、静かな美しい挿入歌のようです。
その直後の10曲目には、不安感をあおる激しい曲が続き、最後には、もやもやした気分を払拭するような陽気さでHoneysuckle Roseが始まります。この曲も、やはりこのピアニストが弾くと、途中で暗雲が立ち込めたような展開になるのですが、最後は無事スインギーな締めくくりとなりました。
はっきり言って、聴きやすいピアノ・トリオ演奏とは言い難いのですが、これだけ内容が濃く、隅々まで吟味した構成も珍しいと思います。迫力も十分です。ただし、オリジナル曲が多い上に、キャッチーな曲があまりないので、とっつきにくいのかもしれません。何度か聴くうちに曲に馴染み、楽しめるようになりました。
蛇足ですが、Winter&Winterレーベルの、限定盤紙ジャケットのデザインも素晴しいです。

(2003年8月 岡崎凛)

Stan Getz Quartet /Sweet Rain

UCCU-5090(Verve)[国内盤]

1.Litha
2.O Grande Amor
3.Sweet Rain
4.Con Alma
5.Windows

Stan Getz(tenor sax)
Chick Corea(piano)
Ron Carter(bass)
Grady Tate(drums)

Recorded on March 30, 1967
at Van Gelder Studio, Engelwood Cliffs, N.J.

最近EQ(Earth Quartet)という日本のグループの演奏を聴いて以来、どういうわけか非常に聴きたくなったのがこのアルバムです。EQも同じサックス+リズムセクションの構成なのですが、細部についてはかなり違います。自分の頭でこの二つが強力に結びついた理由については、そのうちじっくり考え、EQのCD評を書こうと思っています。
Stan Getzについては、Getz/Gilbertoで「イパネマの娘」を聴いて以来、ボサノバの人という印象があります。本作品でも2曲目に登場するAntonio Carlos Jobimの曲で、「やっぱりこの感じがスタン・ゲッツらしい」と感じてしまいますが、ひょっとすると、このアルバムではこういう曲を割愛してもよかったかもしれません。極端な意見でしょうが、ボサノバ曲を演奏するStan Getzのアルバムは他に山ほどありますが、Chick Coreaの曲でこれほどの魅力を発揮するアルバムはあまりないと思うのです。
未聴ですが、やはりChickの参加したアルバム、'Captain Marvel'で、若いミュージシャンたちに触発されたStan Getzのプレイが非常に魅力あるものだという話を聞くと、この'Sweet Rain'の流れから考えて、非常に納得ができます。'Captain Marvel'にはなかなか出会えませんが、楽しみを先送りにするのも悪くないかと思っています。
Stan Getzの全盛期と言われる50年代の活動についてはよく知りません。若き日の彼の作品を聴くのも、それはそれで楽しいことでしょうが、こういう発掘作業はもっと先送りにしそうです。
1曲目のChickのオリジナル曲では、追い立てるようなスピード感が止むと、一瞬ふわりと身体が宙に浮くようです。2曲目は上記の通り著名なボサノバ曲ですが、1、3曲目に挟まれると、やや異質な印象を受けます。このO Grande Amorでは、人間味あふれるサックスの音なのに、3曲目ではがらりと雰囲気が変わり、静かにモノトーンの風景を描写するような演奏になります。
4曲目はドラムの叩きだすラテン・リズムが小気味よく、各自のソロを盛り立てるDizzy Gillespieの曲。5曲目は、Chick Coreaのオリジナル曲で、Stan Getzのサックスにはストレートな力強さと緻密さが交互に現れ、Chickのソロパートには、彼らしいきらめきが満ちています。
Ron Carterのベースは、何度聴いたか分からないほど聴きましたが、ドラムのGrady Tateをちゃんと聴くのは初めてです。1曲目でのベースとドラムのサポートがとくに素晴らしく、緊張と弛緩を繰り返す曲での役どころの押さえ方は抜群です。この曲以外でも、Grady Tateのドラムは、終始絶妙のタイミングとコントロールを見せています。
このアルバムが出た頃は、将来のChick Coreaの活躍をまだだれも確信していなかったかもしれませんが、予感が確信に変わるターニングポイントは、この頃にあったのかも知れません。そうした彼の初期作品としても興味深いのですが、Stan Getzと彼との顔合わせが独特の雰囲気をもたらしているのが、何よりの魅力です。

(2003年8月 岡崎凛)


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