No.14
 
Bar Talk/Jeff "Tain" Watts
 

1.JC Is The Man(Part 1)
2.Vodville
3.Stevie In Rio
4.Mr.JJ
5.Side B
6.Kiss
7.JC Is The Man(Part 2)
8.Laughin' & Talkin'-(with Higg)
9.Tonality Of Atonement
10.Like The Rose

Jeff "Tain" Watts(drums),Ravi Coltrane(sax),Paul Bollenback(g),Gregoire Maret(harmonica),David Budway(piano),James Genus(bass),Branford Marsalis(sax),Michael Brecker(sax),Robert Thomas Jr.(perc),Eric Revis(bass),Joey Calderazzo(piano),Hirum Bullock(g),Juan Tainish(v),Henry Hey(keyboards)

Recorded on Dec.2001-Jan.2002 at Manhattan Center Studios,New York City,NY
(Sony Records International SICP213)

お題ぴったりのジャケット写真には、ワインレッドの光に照らし出されたバーカウンター、その向こうに座るJeff "Tain" Wattsの大きな顔。小川隆夫氏のライナー・ノートを読むと、"ニューヨークのパパイヤ鈴木”という言葉があり、笑ってしまいました。

著名プレイヤーの名前が並ぶこのアルバムですが、ひたむきに音楽と向き合うことと、はぐらかしや遊び心を楽しむことが、常に共存しているのは、このドラマーの人柄のせいでしょうか?Jeff "Tain" Wattsの演奏は今までも耳にしていましたが、彼の作風に注目したのは初めてです。Wynton Marsalisの「スタンダード・タイム」にも参加してましたが、これまで特に注目したことはなく、有名なドラマーだという印象しかありませんでした。
正直言って、ジャズ界メインストリーマーの頂点にいる人たちの活動には、最近あまり興味がないのです。しかし、何となく試聴してみたこのアルバムは、1分弱聴いてすぐ買うことにしました。

タイトル通りの楽しげなバーの会話から、'JC is the Man, JC is the man...'の歌が始まり、演奏が始まるという演出。Ravi Coltraneのサックス、Paul Bollenbackのギターが、客たちの歌と同じメロディーを奏で始めると、バーの片隅に、浮遊する記憶の断片が明滅するようです。全体にほの暗い雰囲気に、Gregoire Maretのノスタルジックなハーモニカの音が暖かく響くこの曲は、アルバムのテーマ曲であるらしく、Part 2が7曲目に登場します。

2曲目はBranford Marsalisのサックスの何とも奇怪な音に始まり、徐々に緻密な構成に変化する曲で、めまぐるしくテンポの変わる、ドラム好きには楽しくて仕方ない作品です。4曲目はコルトレーン・トリビュート曲かと思ったら、愛犬だったチャウチャウ犬に捧げた曲だそうで、Branford MarsalisとMichael Breckerの2人のテナーサックスが、ここぞとばかり熱いプレイを披露しています。2人のソロがそっくりなのは、わざとやってるのでしょうか?ピアノのJoey Calderazzoはこの曲だけに参加していますが、この曲にぴったりの濃厚な雰囲気を作り出しています。ドラムがサックスに切り込むタイミングも最高。

緊張感あふれるこの曲の後に、がらりと印象の違う曲を続け、6曲目はDavid Budwayの美しく伸びやかな曲。David Budwayのことは全く知りませんでしたが、このアルバムでは彼のサポートが随所に光っています。
8曲めはBilly Higginsに捧げた曲。病と闘っていたBilly Higginsを、彼も応援していたのだろうかと思うと、少ししんみりした気持ちになりました。ドラムをフィーチャーした硬質な印象の曲の終わり近く、James Genusのベース・ソロが印象的。
さらに9曲目は、故Kenny Kirklandの曲で、ライナー・ノートにもあるように、Branford Marsalisのソプラノ・サックスから切々とした心情が伝わります。静かに思い出を語るようなソロですが、これを受けて続くPaul Bollenbackのギター、David Budwayのピアノソロも、しみじみとした語り口です。

ライナー・ノートによれば、ラスト曲のヴォーカルは"Tain"本人だろうとのことですが、やや控えめで、隠し芸の披露という感じではありませんでした(実は歌もうまいことは、よく分かりましたが)。これもひねりのきいた、アイデア満載の一曲です。

Jeff "Tain" Wattsは、演奏の素晴らしさは論外として、どこかふざけているのが、いい味を出すようです。お蔭でこのアルバムは、文句なしに楽しむことができました。

(2004年1月 岡崎凛)

Live at Historic Slugs'/Music Inc

1.Spanning (tolliver)
2.Felicite (McBee)
3.Wilpan's (McBee)
4.Orientale (Cowell)
5.Our Second Father-dedicated to the memory of John Coltrane (Tolliver)

Recorded live at Slugs Saloon, NYC in 1970
Charly Schalplatten GmbH. (licenced from Strata-East Records)
(注:ジャケット写真もドイツ盤)

Charles Tolliver (trumpet),Stanley Cowell (piano),Cecil McBee (bass),Jimmy Hopps (drums)

ジャズを聴きだした頃、何かしら惹かれるアルバムとして耳にしていたこの作品は、探してみるとどこにも売ってないことに気づきました。CD店を探し回った数年前に再発され、探した頃には出回ってなかったようです。その後やっと通販でこれを買ったときは、このドイツ盤も廃盤でした。よほど人気がないのだと思っていたのですが、日本のBomba Recordsがこのアルバムを再発予定という情報が最近になって入りました。もっと早く出してほしかったというのが正直な感想ですが、ここしばらくこのレーベルのCD入手に苦労してきたので、やはりこれは嬉しいニュースです。
(追記:2003年12月14日発売されました。1曲追加があり、ジャケットはドイツ盤と異なります)

Strata-Eastレーベル作品再発としては、Stanley Cowellのソロ作品'musa'を聴きましたが、これについてはまた別に紹介したいと思っています。本アルバムの前に買ったMusic Incの作品は、"live In Tokyo"と、カルテットにビッグバンドを加えた'Music Inc.'です。

"live In Tokyo"は73年来日時の作品で、これもMusic Incらしいリリシズムに満ちた作品であり、ジャケット写真に写る彼らの服装からもアフリカ文化の継承者としてのこだわりが感じられます。壮大であっても、安易な大仰さはありません。ベースとドラムのClint HoustonとClifford Barbaroの演奏も独特の高揚感に満ちています。ただ'Live at Historic Slugs''とは何かが違うと感じました。Stanley Cowellはすでにグループを脱退していたのに、処々の事情により来日の運びとなったそうです。しかしこの頃の彼が乗りに乗っていたからなのか、土壇場で代打に立ったという印象はありません。しっとりとした深みのあるピアノの音が、Tolliverの柔らかなトランペットの音と融合していき、聴衆が聞き入る様子が目に浮かびます。しかし残念ながら、このときの2人に、円熟という言葉は不似合いだったのかもしれません。
(ビッグバンドを加えた'Music Inc.'の作品について書くと、永久に本題の'Live at Historic Slugs''にたどり着かないので、今回は割愛します。)

さて、やっと本題の'Live at Historic Slugs'ですが、このアルバムには、独特の雰囲気があります。これからの時代への、熱い思いを凝縮したような演奏。ハード・バップ最盛期のリリシズムを再現するような、Charles Tolliverの、ほろ苦く爽快感のあるメロディー、火花の出そうなJimmy Hoppsのドラム。詩の朗読のようなCecil McBeeのベースソロ。そしてStanley Cowellの、ときに濁流のような勢いと、緻密な音の構築。どの曲からもこの4人の集中力が痛いほど伝わりますが、特にCowell曲のOrientaleでは、ピアノとベースが対等に絡む優美な織物のような演奏から、トランペットが繰り返すテーマ、ベースソロ、アルコでのテーマへとの展開し、曲名の通りに東洋への憧憬が込められ、この4人の底力を感じます。

ラスト曲の副題は「John Coltraneの追憶に捧げる」となっていますが、このライヴが行われた頃、彼の喪失感を乗り越え、次のステップに進むことが、この4人にとっても大きな課題だったことは想像に難くありません。4人の視線は、実はすでに様々な方向を見据えていたのかも知れませんが、このラスト曲での統一感から、そんな思いも吹き飛びます。Jimmy Hoppsのコースすれすれに爆走するようなドラムと、律儀に型を崩さないCharles Tolliverのトランペットとの絡みに、最後まで気が抜けません。

全曲を通して、奔放な激しさから見事な調和に向かう充実感があります。ただひとつ難点は、ピアノの調律ができていないことですが、作品全体のみずみずしさ、スケールの大きさ、集約されたエネルギーを考えれば、このアルバムを聴かない理由にはならないでしょう。

[参考作品:Music Inc."live In Tokyo"/Charles Tolliver (P.J.L MTCJ-2503)]

(2003年12月 岡崎凛)


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