No.15
 

Musa/Stanley Cowell

 

1.Abscretions
2.Equipoise
3.Prayer for Peace
4.Emil Danenberg(from "Illusion Suite")
5.Maimoun(from "Illusion Suite")
6.Travelin' Man
7.Departure No.1
8.Departure No.2
9.Sweet Song

Recorded at Minot Studios, White Plains, N.Y. on December 10 & 11, 1973
(Strata East Records SECD9028/ Bomba Records BOM22183)

Stanley Cowell :piano ( electric piano&African thumb piano on track 6)

Stanley Cowellについては、もっと新しい作品について書こうと思っていたのですが、DIWから出た'We Three'を聴いても、自分が彼に望むものとは出会えなかったこともあり、新作を聴くのは二の足を踏む日々でした。なのに、旧作再発であるこのCDを店頭で見つけたときには、すぐに買う気になってしまいました。73年の作品であり、ECMから発売された'Illusion Suite'でも聴いた'Emil Danenberg'と'Maimoun'のピアノソロは、ぜひ聴きたいと思ったからです。
実際に聴いてみて、本当ならもっと前に出会うべき作品を、やっと聴くことができたのだと実感しました。上述のトリオ作品'Illusion Suite'もなかなか手に入らず、中古LPを買ったのですが、このアルバムと、Music Incに参加していた頃の彼の演奏が特に好きな自分にとっては、この'Musa'は、'Illusion Suite'と並んで、一際輝く作品に思えます。しかし、これだけ気に入ってしまうと、返って賛辞が思い浮かびませんでした。

少し日を置いた今、多少冷静に聴けるようになりましたが、未だに5曲目の'Maimoun'を耳にすると、妙に感情が昂ぶってしまいます。いつもなら、押し付けがましいセンチメンタリズムは願い下げなのに、じわじわと押し寄せる感情に圧倒されてしまうのです。この曲は、しだれかかる悲しみに抗する者への賛歌のようであり、感傷的な気分が高揚感へと変化していきます。大げさな感想になってしまいましたが、Stanley Cowellの魅力を存分に知ることができる作品に間違いないでしょう。
ジャズピアニストとしての彼の演奏技術と表現力を知る上では、最後の3曲でも十分かもしれませんが、Stanley Cowellの魅力は、彼の多岐にわたる音楽知識と表現力にもまして、まずは非常に親しみやすいメロディーを基調にしていることだと思います。1曲めのやゴスペル風の曲は、びっくりするほど何のひねりもありませんし、2曲めにも、所々に不用意なぐらい甘い旋律が登場します。3曲目に入って、ようやく彼らしい陰影に富んだ内容になりますが、やはり、特に過激なところはありません。
ですから、この作品に極度のアップダウンを期待するリスナーには、はっきり言って期待はずれになると思います。Stanley Cowellの作品をさほど多く聴いたわけではないのですが、もともと彼は、不協和音や激しい演奏でとことん戦う人ではないようです。

ただ、Music Incのスラッグズでのライヴを聴いた印象では、かなりアヴァンギャルドな傾向があると感じたし、彼の作品にそうした傾向を、どこか期待してきました。Stanley Cowellには、ゴージャスでスタンダード中心のアルバムなど作ってもらいたくないというのが、正直な思いです。最新作を聴いてもいないのにこんなことを書くのは間違っているでしょうし、彼の歩んできた、おそらくは苦労に満ちた道のりを思えば、今の彼の成功には拍手を送るべきかもしれません。しかし、今も自分が彼から聴きたいものは、特に録音がよいわけでもない、この地味なソロアルバムのような作品です。気概というものに触れなければ、どんな名演奏にも興味は沸きません。80年以降の彼の作品には、何かが欠けていると思うのです。この思いを消してくれる作品に出会うことを心待ちにしています。

(2004年3月 岡崎凛)
-Music Incの作品については、No.14をご覧ください-

Stanley Cowell

We Live Here/Pat Metheny Group

1.Here to Stay
2.And Then I Knew
3. The Girls Next Door
4.To The End Of The World
5.We live Here
6. Episode d'Azur
7.Something To Remind You
8.Red Sky
9.Stranger In Town

MVCG-168(GEFD-24729)
1995年作品

Pat Metheny (guitar, guitar synth.),Lyle Mays (piano, keyboard),Steve Rodby (accoustic & electric bass),Paul Wertico (drums),David Blamires (vocal),Mark Ledford (vocal, trumpet),Luis Conte (percussion)

つい最近買った、Pat Metheny Groupのこの作品は、このグループにしては珍しくR&B色を出したもので、やや異色作品かもしれません。しかし彼らの歴史の中で突出したアルバムとも言えない作品です。多少の脚色はあっても、Pat Metheny作品らしからぬものではありません。ただ1曲目のブルージーな演奏は、頭の中で思い出すとき、いつのまにかGeorge Bensonの音と重なってしまいました。Pat Metheny Groupの曲を聴いてこんな体験をするのは初めてです。
Pat Metheny Groupの作品というのは、Pat MethenyとLyle Maysの2人を中心とした、架空のテーマパークからの定期通信のようです。確固とした世界が成立し、そこから次々とアイデアが生まれ、育てられたものがファンに届く。現実にはそんな簡単なものではないでしょうが、Metheny-Maysの結束が生み出す作品群は、どれも彼らのブランドイメージを裏切らないものです。

しかし、ワンパターンという言葉はあまりに失礼でしょうが、長く聞いていると、いつもの彼らに出会えるという安心感だけでは、新譜を買う意欲が湧かないというのが、最近の正直な印象でした。新譜だけではなく、古い作品を集めることもない自分は、世のマニアックなMethenyファンから見れば、ファンの端くれにもならないことでしょう。しかしそんな自分も、1984年作品の'First Circle'は何度となく聴きました。当時一番好きだったのがこのアルバムだったかもしれません。

最初に聴いたPat Metheny Groupのアルバムは1979年の'American Garage'だったと思います。当時はフュージョン全盛だったと記憶していますが、これには、無理にフュージョンという分類に入れることのできない独特の世界がありました。これより一年ぐらい前の作品の、グループ名がアルバムタイトルとなる'Pat Metheny Group'は、最近になって聴いたのですが、Jaco Pastoriusなど当時人気のあったミュージシャンの影響はあるものの、その後20年以上続くPat Metheny-Lyle Mays作品の世界は、ある意味、この作品から大きな変化はありません。ほのぼのとしたパステルカラーの風景画を連想させる、郷愁に満ちた曲があり、ブラジル風のヴォーカルが加わり、精緻に織り上げた曲想を完璧に演奏してみせる世界。これがPat Metheny Groupの基本路線ではないかと思います。
そんな彼らの世界の聖域が垣間見えた気がした作品が、1981年のアルバムタイトル曲の'Offramp'でしたが、これはどうやらOrnette Colemanの影響だったようです。このあたりを探求するほど詳細な知識はないのですが、カラフルなPat Metheny作品の中核にあるものは何かを考える手がかりになりそうです。

'We Live Here'について語るスペースがどんどんなくなってしまいましたが、最初に少し紹介した1曲目は、キャッチーな名曲です。ある意味、この1曲だけで、多くのリスナーの購買意欲をそそるでしょう。Pat Methenyのギターの音に今さらながら聴き入ってしまい、柔らかく響いては、切なく消えいく音に魅了されます。2曲目は、キャラメルソース味、リー・リトナー風味という感じで、甘さが気になります。ヴォーカル使いに目新しさがないのも不満ですが、ブルース、ジャズテイストの3曲目で気分が一新します。

全曲にコメントするのは避けますが、彼らがジャズという枠に回帰したと特に感じたのが、5曲目です。これも全体的にはこのグループらしいまとめ方になりますが、Lyle Maysのオリジナル曲とあってか、ピアノ演奏の輝き方が違います。
ソウル系の雰囲気を持ち込んだフュージョン風の曲にも、Pat Metheny Groupらしさは常に強調されます。時に、幸福感に満ちたギター・シンセの音。ヴォーカルの使い方についても、やはり基本路線は変わりません。9曲目、テーマの後の、管楽器的のソロのようなギター演奏は面白いのですが、だんだんいつもの曲調になっていきます。
このアルバムが、彼らの作品の中で、突出した出来ばえかどうかと訊かれたとすれば、返事に迷うところです。正直言って、一部の安易なまとめ方が気になります。しかし、1、5曲めは、それぞれ忘れがたい逸品であり、彼らが作り出す新たな風景を見たように思いました。また、Pat Methenyのギター・テクニックの披露という点では、何の不満もありません。基本的には、Pat Metheny Groupは、難解な印象の作品で勝負することはありません。そうした路線があるとすれば、グループを離れたところで追求されていくと思います。 99年発表の'Imaginary Days'は、80年代最初の彼らの世界に戻った感がある作品ですが、完璧主義的な作品構築へのこだわりに、やや聴き疲れました。一方この'We Live Here'は、手離しで絶賛される作品でもないでしょうが、彼がふだん聴く音楽や、かつて親しんできた音楽が目に見えるようで、楽しく聴くことができました(ヴォーカルの使い方など、もっと変化がほしかったですが)。

グループを離れたところでのPat Methenyの活動については、いずれ別の作品で触れたいと思います。

(2004年2月 岡崎凛)

Pat Metheny Group

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