ジャズCD + Live 行き当たりばったり

Nils Petter Molvaer/er

No.25
 

1. Hover
2. Softer
3. Water
4. Only These Things Count
5. Sober
6. Darker
7. Feeder
8. Dancer

Nils Petter Molvaer (trumpet, bass, keyboard, sampling, etc),
Eivind Aarset (guitar),
Rune Armesen (drums, percussion),
Pal [strangefruit] Nyhus (vynil chanelling, programming, mixing, etc),
Jan Bang (samples, drumprogr.,etc),
Sidsel Endresen (voice, vocal),
Elin Rosseland (voice),
Ingebrikt Flaten (accoustic bass, double bass),
Knut Saevik (programming, mixing, etc),
Eric Honore (keyboard),
Magne Furuholmen (piano),
Helge Nordbakken (percussion),
Reidar Skar (mixing, etc)

2005 Sula Records 0602498741573)

http://www.nilspettermolvaer.com/er.html

2005年8月、東京ビッグサイトで行なわれた「2005東京ジャズ」に出演したNils Petter Molvaerのグループには、Bill Laswell(bass)も参加していたと聞いたとき、惜しいことをしたと思いました。関東の友人にチケットが余っていると誘われていたからです。日々の雑事に追われる大阪在住者は、なかなか関東のイベントに行くことはできません。

というわけで、その時の彼の演奏と今回のCDの類似点については全く分かりませんが、目にしたライヴ評によれば、打ち込みやサンプリングを多用したステージだったようなので、このアルバムと似た路線だったのかも知れません。

持っていた彼のリーダー作は、“Solid Ether”(ECMレーベル)だけだったので、他の作品も買おうと思っていたところ、CDショップに行ったら新作を見つけてしまいました。“Solid Ether”と同じように、彼のトランペットを聴いていると、目の前に茫漠とした風景が広がるようです。砂漠か、雪原か、とにかくだだっ広い世界。雪片か砂粒のようなものが、足元にさらさらと流れる感触、顔に当たる冷えた空気。自分に限らず、彼の演奏を耳にして、何らかの映像を思い浮かべてしまうリスナーは多いかと思います。

“Solid Ether”との出会いは衝撃的でした。特に、1、2、3曲目での、Nils Petterの漂うようなトランペットの音に激しく迫るシンセサイザー音の洪水。実に緻密に構築された、音の対決と融合。リズム重視の2曲目の後、音によって静謐を表現するような3曲目。

様々なコンピュータ音を根気よく編集したこの作品に、ジャズの要素は申し訳程度にしか残っていないのですが、3曲目で特に、Miles DavisとGil Evansのオーケストラによるアルバム、“Sketches Of Spain”を思い出しました。寂寥感を強調しすぎた感がありますが、静かなバックグラウンドにトランペットの音色が響くたびに、ついつい、似ていると思ってしまいました。彼がMiles Davisを敬愛していることは、おそらくこのCDを聴くだけで明らかですが、しかし、その点を強調する必要はないでしょう。一人の北欧のジャズ・トランペッターが行き着いた回答がこのアルバムに集約され、彼はごく自然に、現代の最先端のハウス・ミュージックに近づいたのだと想像しています。(あいにくこの種の音楽には詳しくなく、音楽用語の誤用があればご容赦ください)

新作の“er”でも、やはり“Sketches Of Spain”を思い出してしまいました。端々にその要素がありますが、特に5曲目で顕著です。全体に、サンプリング音源や電子音、ヴォイスはいっそう多種多様になっています。パーカッションを重視し、搾り出すようなトランペットを重ねた2曲目はシンプルながら重苦しく、3曲目でやや明るくなり、様々な音源の断片を散りばめ、ギターシンセサイザー音(またはそういう音)での盛り上がるところが心地よいです。その気分のままに、ゆったりとしたトランペットの音色で4曲目が始まり、しみじみとした歌声につながります。このヴォーカル部分はかなり聴きやすく、唐突感なく全体に溶け込んでいます。このあたりでは、ざらついた音が止み、優美でしっとりとした音に包まれます。ジャズよりもプログレッシヴ・ロックのほうに、こういうアプローチが多いかと思いますが、シンフォニックな要素のルーツは、やはりMiles Davisの作品だろうという気がします。

6曲目でがらりと雰囲気が変わり、複雑な打ち込み打楽器音やノイズ系ギターなどが生成する薄暗い世界に入って行きます。相変わらず漂うようにトランペットの音が滑空し、かなりマニアックな仕上がりで、リミックス技術の手数の多さに興味の持てないリスナーは、集中力を維持しづらいかもしれません。この辺りを、非常に面白いと見るか、単に退屈と見るかは、意見の分かれるところでしょう。激しいビートと浮遊する音のアンサンブルに揺られて、コンクリートジャングルを高速で駈け抜けるような感覚が消えると、また寂寥感に包まれます。7曲目でますます迷路に入り込み、爽快感に出会うのを諦めるまで付き合えば、どれほど選び抜いた音作りをしているのか分かってきます。やっと薄明かりに出会う感のある8曲目は、次第にドラムも加わる終結部らしい構成ですが、あえて唐突な終わり方でまとめています。

どうも、誉めている感じのない説明になりましたが、音作りでは、集中力を総動員させて、体感できる感覚の全て表現しようとするかのようです。安易な盛り上げ方をしない姿勢には共感できますが、音の断片はあまりに高速で飛び交い、リスナーも相当集中しなくては楽しむところまで至りません。しかし、要所に散りばめられた輝きに魅せられ、別の作品を聴いてみたくなりました。

Nils Petter Molvaelのアルバムは、リミックス盤、ライヴ盤といろいろ出ていますが、次回は、最初のリーダー作、“Khmer”を聴こうと思っています。

er
 

“er”の参加メンバーの人名の文字の一部を略式表記していることをご了承ください。Nils Petter Molvaerは、正しい綴りではaeが一体化した文字になります。Nils Petter Molvaerをはじめ、北欧のジャズ情報、日本でのライヴ評、ノルウェー語の読み方についても詳しいのが、このサイトです。日本語での情報が少ない分野なので、大変貴重な存在です。14万件を越えるアクセス数から、ユーロジャズの潜在人気を実感します。

http://www.grinningtroll.com/

ここでの説明によれば、「ニルス・ペッテル・モルヴァル」の読みが原音に近いようですが、CD販売店ではニルス・ペッター・モルヴェルという読みをよく目にします。名前が覚えにくいことで知名度が上がらないとすれば、本当に勿体ないことだと思います。

(2005年12月 岡崎凛)

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