ジャズCD + Live 行き当たりばったり

Brad Mehldauについて(2)

No.23

<ソロピアノ・ライヴ盤>

Brad Mehldau/Live In Tokyo

 

Disc 1

1.Intro (Mehldau)
2.50 Ways To leave Your Lover (Simon)
3.My Heart Stood Still (Hart/Rodgers)
4.Roses Blue (Mitchell)
5.Intro II (Mehldau)
6.Someone to Watch Over Me (Gershwin/Gershwin)
7.Things Behind The Sun (Drake)

Disic 2

1.C Tune (Mehldau)
2.Waltz Tune (Mehldau)
3.From This Moment On (Porter)
4.Alfie (Bacharach/David)
5.Monk's Dream (Monk)
6.Paranoid Android (Yorke/O'Brien/Greenwood/Greenwood/Selway)
7.How Long Has This Been Going On? (Gershwin/Gershwin)
8.River Man (Drake)

Brad Mehldau (piano)

recorded live in concert Feb 15,2003,Sumida Triphony Hall, Tokyo
Nonesuch WPCR-11964/5

Brad Mehldauのトリオについて、複雑な陰影をなぞるようなところばかりを誉めてしまいましたが、2003年2月にすみだトリフォニーホールで録音された、“Live In Tokyo”の2枚組の1枚目を聴けば、彼のそういう部分よりも、端正な美しさとストレートな叙情性に触れることができます。1枚目には、ついつい記憶の中のKeith Jarrettのソロと比較してしまう部分がありましたが、2枚目ではそんなことは考えませんでした。歌心溢れる部分も魅力的でしょうが、ここには、Brad Mehldauにしか作り出せない、精緻な迷路のような世界が凝縮されています。

“From This Moment On”は、複雑な奏法を駆使して織り上げたような、彼らしい作品。さらに、壮絶な探求が続く“Monk's Dream”。これだけ目まぐるしい変化を遂げると、最後にテーマに戻ってくるのが不思議なぐらいですが、リスナーをごく自然に元の場所に連れ戻してくれるのです。奇跡と呼んでもいいような演奏がフィニッシュを決めた後の拍手は、とりわけ大きいように聞こえます。これに続く“Paranoid Android”は、感傷を歌い上げるように始まり、薄い色が次第に色を深め、激しい演奏となります。これもRadioheadのオリジナルでの展開を踏まえつつ、ドラマのクライマックスを描き出すような演奏。ここでまた奇跡という言葉を使うのは避けたほうがよさそうですが、とにかく驚きの連続の中で、あの印象的なメロディーが反復され、ずっしりと重みのある部分と、軽やかな部分が交錯します。この1曲に使われた19分に、無駄なものは一切ありません。聴衆の反応は、深い感慨を噛みしめるようです。

2枚それぞれの終わりには、Nick Drakeの作品が使われ、ラストは“River Man”。よくもこれだけ集中力が途切れないものですが、やはり隅々まで神経の行き届いた演奏。こんなに充実したライヴを聴いた人たちを羨ましく思います。

購入したCDは国内盤で、来日記念盤の2枚組でしたが、曲目を少なくした輸入盤もあります。選曲から考えると、輸入盤のほうでも、彼の魅力は十分に味わえるでしょう。ただし、ここに入ってないJoni Mitchell作曲の“Roses Blue”も素晴らしい演奏だったので、自分としては2枚組を買ってよかったと思っています。

輸入盤の曲目を調べたときに、Amazon USのコメントに目を通したのですが、絶賛の声よりは、やや辛口の意見が並んでいました。(全体的な評価は5段階の4)ジャズピアニストらしくない点が好きになれないという意見もありましたが、特に興味深かったのは、A. Burns "adb7005"氏によるコメントでした。彼は上記の“Monk's Dream”について、もっと削ぎ落とすべき部分があるとしています。Radioheadの“Paranoid Android”についても、以前に発表された、同曲のトリオでのスタジオ録音の、これより短くまとまった演奏ほどには感銘を受けなかったとしています。ただし、この批評家然としたライターは相当熱心なBrad Mehldauのファンで(“Day Is Done”についても寄稿しています)、丁寧な分析をした上での厳しい意見でした。彼によれば、“Monk's Dream”には、Vince Guaraldiの“Linus and Lucy”が挿入されているということでした。なかなか思い出せなかったのですが、アニメのスヌーピーで使われていた曲です。そういう遊び心があったことを知ってから、また“Monk's Dream”を聞き返しましたが、残念ながら、再度、複雑に変化する音を追って楽しむだけに終わってしまいました。この作品には、ついていけない部分がかなりありますが、それでも聴くたびに楽しさあります。これが冗長であるという意見を読んでも、その点は変わりません。

(2005年11月 岡崎凛)

Live in Tokyo