ジャズCD + Live 行き当たりばったり
No.26
 

Miles Davis

At Plugged Nickel, Chicago, Volume 1

「プラグド・ニケルのマイルス・デイヴィス vol.1」

1. Walkin' (R. Carpenter)
2. Agitation (M. Davis)
3. On Green Dolphin Street (N. Washington, B. Kaper)
4. So What (M. Davis)
5. The Theme (M. Davis)

Miles Davis(tp),
Wayne Shorter(ts),
Herbie Hancock(p),
Ron Carter(b),
Tony Williams(ds)

Executive Producer:Teo Macero,
Director:Keiichi Nakamura
Recorded date:December 23, 1965
CBS/Sony 18AP2067(LP)

Miles Smiles”と“Nefertiti”のCD紹介、というか、それにまつわる自分の思い出話(No.20)を書いたとき、「“At Plugged Nickel”については次に書きます」という言葉を最後に書いたまま、続きが書けずにいた。マイルスの伝記を3冊(中山康樹訳の自伝を含む)図書館から借り、参考にしようと考えたのが大きな間違いだった。伝記はどれも面白すぎて、興味の対象は日々変わってしまった。Plugged Nickelでのライヴに関する詳しい文献は見つからないまま、その後雑用に追われ始め、分厚い3冊の本はランダムに拾い読みしただけで返却してしまった。

知りたいことはいくつかあった。なぜこのライヴ音源が、今はボックスセットでしか売られていないかということ。自分はかつてLP2枚でこの作品に出会い、それが日本国内限定で発売されていたことを知らなかった。そのあたりの情報については、このLPのライナー・ノートぐらいしか手がかりがない。その上、vol.1は持っているが(2年ぐらい前にやっと入手)vol.2はまだ手元にない。あるのはおぼろげな記憶ばかりだ。だったら、ボックスセットの完全版を買えばいいわけだが、自分はどうもこのボックスセットを買うことに抵抗がある。自分はMiles Davis作品のほんの一部しか持っていない。まだ“Get Up With It”も買っていない。いくらこのライヴに価値があるといっても、これだけを聴きたいとは思わない。それに、何かと理由をつけて高価なボックスセットだけをリリースしようとする音楽業界の姿勢も好きになれない。vol.1、2をひとつのCDにして売れば、この頃のMiles Davis Quintetの魅力を知る人がもっと増えると思うのだが…

(自分はけっこう依怙地になっているので、今のところボックスセットの購入予定はありませんが、臨時収入があれば買ってしまうかもしれません。ゆとりがあれば買いたいものであることは間違いありません)

それはとにかくとして、このグループのWayne Shorterが加入するまでの経緯は、3冊のマイルスの伝記で読み、大変面白かった。それまで自分が思い違いをしていたと思うのは、Wayne Shorter在籍時のMiles Davis Quintetの中心的存在は、リーダーではなくWayne Shorterだと思っていたこと。何より、彼の曲とアレンジがこのグループの根幹と思い込んでいたことだ。彼の加入前に、Miles Davisとリズムセクションの3人だけで発展していた部分についてはほとんど考えていなかった。

Wayne Shorterの前に加入していたGeorge Colemanは、リズム隊3人の意に沿わなかったらしく、随分嫌な思いをしていたようだ。彼の参加したアルバムは素晴らしいと思っていたので、この話は意外だった。ミュージシャンが自分の思いを全て言葉にしているとは思えないので、George Colemanへの非難は話半分に聞こうと思うが、目にした文献から想像する限り、Miles Davisはもちろん、他の3人も、テナー奏者に異常なほど期待をしていたようだ。

1960年代の最初と終わり、もしくはもっと短い数年の間に、Wayne Shorterは劇的に変化した。誰が聴いても、その変化は明らかだ。ただ自分は彼の残した音源のほんの一部しか聴いていないから、偏った判断しかできないが、その変化を端的に示すのが、この“At Plugged Nickel, Chicago vol.1”での演奏であり、特に2曲目の“Walkin”での演奏ではないかと思う。

演奏する5人は、それぞれがひたすらスリルを求めることを最優先しているようだ。まずはMiles Davisのトランペットソロが駆け抜ける。当然ながら、スタジオ盤での完璧とも思える緻密さはないが、その場で受け取ったエネルギーを一気にプレイに転化する感覚は、やはりライヴ盤でしか味わえない。これに続くWayne Shorterのソロには、原曲のひとかけらも見当たらない。彼のソロは、まるで観客が目の前にいることさえ忘却したように、何かに呑み込まれたように、始まる。リズムには乗っているが、訥々とした独り言のようなサックス・プレイ。これを支えるというよりは、ぎりぎりまで激しく迫るTony Williamsのドラムが、さらに緊張感を高める。
ここでの彼のプレイは、彼の高い技術だの豊かな表現力だのという評価と全く異なる次元で成立し、そこにプリミティヴなものへの回帰を読み取るのも、Shorter特有の宗教的傾向を読み取るのも、リスナーの自由だろう。かなり古い表現をするなら、「トリップしていますね」という言い方もできるかもしれない。だが、とりあえずそんなことは忘れて、サックスに聴き入る。その音は少しずつ変化して勢いを増し、リズムセクションの作るうねりの中に流れ出し、異様な高揚感を生み出す。そしてプレイヤーのターニングポイントに遭遇できたような気分になれば、たとえそれが愚かな思い込みであろうと、これほど楽しいことはない。そして続くHerbie Hancockのソロの後、夢から覚めるように、クインテットは“Walkin”のエンディングテーマに向かう。

個人的には、この1曲目が一番好きだ。“On Green Dolphin Street'”でのMiles Davis のミュート・トランペット演奏には、帰りたくなる家のような魅力がある。だが、“So What”での激しい展開のほうが、いかにもこの時期の5人の演奏らしいものではないかと思う。文句をつけるとすれば、ピアノとベースの音が奥に引っ込みすぎているのが、少し気になるぐらいだ。このアルバムは、激変の時期に録音されながら、Miles Davis Quintetの昔ながらの名曲を堪能できる、不思議な作品とも言える。

長い間、Miles DavisのLPで一番気に入っていたのが、この“At Plugged Nickel, Chicago vol.1”だった。長年欲しいと思っていて、2年ぐらい前に中古レコード店で見つけたときは嬉しかった。その後ネット・オークションでも時々出品されるのを見かける。最初に書いた理由もあって、自分の中での優先順位は、このvol.2のLPのほうが、ボックスセット購入より上になっている。
(ボックスセット以外に、“Higtlights From The Plugged Nickel”のようなダイジェスト版CDもあるので、興味のある方は探してみてください)

(2006年1月 岡崎凛)

At Plugged Nickel,Chicago Vol.1
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