ジャズCD + Live 行き当たりばったり

「明(さや)けき響、巡る秋」
川嶋哲郎(sax)+
鬼怒無月(guitar)Duo
(Nov.11,2006、音楽ホール&ギャラリー里夢)

No.28

平石いづみさん主催の川嶋哲郎ソロを聴くのは自分にとっての年中行事となっているが、今年の秋はソロ・ライヴには都合がつかず、このデュオだけを聴きに行った。絶対聞き逃したくないと思っていたのに、いつもの癖で呑気に構えてしまい、予約を入れたのは一週間前。残席があると聞いてほっとした。

今度はどんな会場だろうと思いながら阪急六甲駅を降り、坂道を登っていく。平石さんはライヴのシリーズにいつも凝った名前をつけ、今回のタイトルは「明(さや)けき響、巡る秋」とある。11日が初日で、19日が最終日なら、秋の風景はその間に毎日少しずつ変化しただろう。そして川嶋さんのサックスも、少しずつ違った色に染まったのかもしれない。残念ながらそこまで追うことはできなかったが、シリーズ最初の演奏を聴いて、また新たな彼の魅力に触れることができた。
平石いづみさんの企画する川嶋哲郎ライヴは、リスナーが会場に到着する前から始まっている。送られてくるライヴ案内ハガキの文面、会場案内の隅々にまで、絶対にいいライヴを提供したいという思いが伝わる。そして会場選びのこだわりは並大抵でない。このギャラリー里夢のホールもマイクを使わずサックスの音を響かせるのにぴったりだったと思う。落ち着いた雰囲気があり、待ち時間もゆったりと過ごせた。

 この日のオープニング曲は、日野元彦作曲の「流氷」。ギターが緻密に織り上げるようなイントロを奏で、力強いリズムを刻みながらサックスの音を呼び込む。何度聴いてもいい曲だと思う。これをCD”Resident of Earth”で聴いたときは感慨深いものがあった。この曲にこのデュオで出会えると思ってもみなかった。だから、あの聴きなれたメロディーが聴こえてきたとき、思わずCDで曲名を確認した。日野元彦の曲は他にもいろいろあるのだろうけど、自分はこれしか覚えていない。
オリジナルで聴いたときよりも、このデュオでのアレンジのほうが、日本的な曲に聴こえた。何度も耳にしていたのに、そんなことを考えたのは初めてだった。そして、川嶋哲郎のサックスで聴きたい曲が、また一つ増えた。
そして、それほど気に入っていた曲がオープニング曲だった。



この日川嶋さんが使ったサックス&フルート

鬼怒さん使用のギター、本日はこれ一本のみ
鬼怒無月のアコースティック・ギターの素晴らしさを初めて知ったのは、「ジャズギタリスト紳士録」という、名だたる日本のギタリストのプレイが聴けるCDだった。(ただし彼はジャズ・ギタリストでもあるけれど、ジャズ圏外での活躍が多い。)ソロCDでも彼のアコースティックギターの魅力を堪能したが、ライヴで聴くのは初めてだった。
数年前に梅津和時率いるKiki Bandで彼のエレキギターを聴いて以来、彼のギターをもう一度ライヴで聴きたいと思っていたが、スリー・ピース(多分トリオと呼ぶよりこのほうが適当だろう)のグループ、coilなど、聞き逃してばかりだった。
だから今回のライヴで川嶋さんが彼と組むと聞いて、何が何でも聴きに行こうと思っていた。関西ではなかなかこんなチャンスはない。この10月に大阪に来たKiki Bandのライヴには、自分の予定が合わずに行けずじまいだった。こうしたアコースティックギターでのライヴも含め、もっと頻繁に彼の演奏を聴くチャンスがほしいと思う。

この日座った席から、鬼怒さんの指の動きをずっと見ることができた。サックスを吹く体力の維持も並大抵ではないと思うが、アコースティック・ギターを弾く腕や指の力をキープするのも、日々の努力によるものなのだろうと考えてしまった。そんなところばかりに感心していると、肝心のプレイを聴き逃してしまいそうだが、こうして弦のきしむ微かな音も逃さぬ距離でギターの音を聴くことができて嬉しかった。

鬼怒作曲の「pacemaker」や「Arcos」を聴いて、川嶋哲郎とのDuoのためにあつらえたような作品だと感じた。この日の川嶋さんの説明では、鬼怒無月とのセッションのCD化にぴったりのレーベルからCDを出すことだできたという。セールスでの結果をあまりうるさく言われないレーベルでの発売、という話は、ちょっとした裏事情だろう。その話の後に、すかさず鬼怒さんがツッコミを入れると、慌てることなく(?)川嶋さんが「今はこれをもっと売ろうと思っている」とか何とか答えて軌道修正。どっと場内が沸いた。
日本のCDはロングセラーになりにくい事情があるようだが、じわじわと良さが伝わるCDは、いつまでも店頭かネット通販のカタログにあってほしいものだ。

この日の後半は二人がそれぞれソロを担当した後、「本日の即興演奏」を聴かせ、またCD収録曲に戻っていった。当たり前のことなのかも知れないが、今回の共演者鬼怒無月に対して、川嶋さんはリスペクトを持って迎えながら、ミュージシャンとしてのライバル意識をはっきり見せていたような気がした。前回のデュオでは山下洋輔を迎えてのライヴだったから、真剣勝負はあっても、和やかさが漂っていた。しかし、今回は、、相手に負けないプレイをしようとする気迫がどこか違う。ジャズ・ファンの間の知名度では川嶋さんが上だろうが、二人の関係はとことん対等だった。おそらく人間関係で一番難しいのは対等な関係だろう。
鬼怒さんのプレイは川嶋さんのバックに徹する部分も当然あるが、ソロパートではかなりアグレッシヴだったし、そんな鬼怒さんのバックに回る川嶋さんのサポートを得て、ますます素晴らしい演奏になった。そんな鬼怒無月が、今度は川嶋哲郎の一番すばらしい部分を引き出す。文句のつけようのない共同作業だった。
こうして、ときに静かで穏やかだが、緊張感溢れるライヴを堪能した。アンコールは、「Georgia On My Mind」。川嶋さんのサックスが朗々と響き渡った。

またこのデュオに出会えるなら、是非聴きに行きたいと思う。毎回同じ言葉になるが、企画と主催の平石さんをはじめ、このライヴに関わったスタッフにお礼を述べたい。

TetsuroKawashima
meets Natsuki Kido
MYCJ-30379

川嶋さんのサインを頂いたのは
今年の5月のソロ・ライヴのとき。
その横に、新たに鬼怒さんにも
サインを頂きました。
ネコ(うさぎ?)の顔も鬼怒さん筆。


(2006年11月 岡崎凛)