京の町家で川嶋を聴く

No.18

川嶋哲郎ソロ公演
2004年4月&10月/京都市花園町「ぎゃらりー妙芸」&
ライブCD“天元〜鏡花水月”、“天元〜改天喚地”
岐阜・Island Cafeにて2004年2月8日、京都・妙芸にて2004年4月17日、18日

---
"Ten_Gen-Kyouka Suigetsu"
Tetsuro Kawashima:tenor&soprano saxes, flute)

"Ten_Gen-Kaiten Kanchi"
Tetsuro Kawashima:tenor sax

recorded live at "Island Cafe" in Gifu (8 Feb '04) and "Myogei" in Kyoto(17&18 April '04)
Player Jazz Library/Jazz Bank, MTCJ-1072&MTCJ-1073
---


TETSUDAS.COM提供

10月11日に『京の町家で川嶋を聴く vol.3−管の響は秋こそまされ』と題されたライブが行われたのは、京都の花園高校に近い、昔ながらの町家をほぼそのままに使った会場だった。この「花園町家ぎゃらりー妙芸」では、庭の草木を背景にした和室に座り、ライブが始まるのを待つ間に、まずは室内の柱や天井などを隅々まで見てしまう。観客はざぶとんに座り、奏者は立って演奏するという位置関係もめずらしく、この場でジャズサックスのソロを聴くという体験自体、ずいぶん貴重なものだ。

今年(2004年)はなんと2回も、この貴重な体験ができた。4月にもこの会場で川嶋哲郎のソロを聴いた。これは、京都に住み、ピアノを教える友人のこずえさん*にこの企画をと教えていただいたからだ。「川嶋さんが私の近所で演奏されますよ」と誘われ、近くの満開を過ぎた御室の桜を見てから会場に向かった。このライブには『桜を愛で、あるいは惜しみつつ、京の町屋で川嶋を聴く』という、主催者の平石いづみさんらしいサブタイトルがついていた。

この二日間の演奏はその後2枚のCDに収録された。正直言って、いくら素晴らしい演奏とはいえ、管楽器一本という地味な企画をCD化しようというのは、随分太っ腹だと感心している。同時に、CD化の実現はなんとも嬉しかった。それは、あの演奏をまた聴くことができるからだけではなく、会場で主催者たちの熱意を肌で感じたからだ。2枚のCDは、ソロライブの企画・主催者の平石いづみさん、川嶋哲郎オフィシャルサイト管理者のnaomiさんのような方々の尽力で生まれた作品でもあると思う。

移ろい行く音があり、鮮明に記憶される音がある。10月のライブの最初、空に突き抜けるように高音が長く響き渡り、そして、数秒の間があった。そしてまた同じ音と、間。単純化された激しさに息をのむ。奏者は、休止のもたらす緊張感をぎりぎりまで引き寄せていった。どこまでシナリオがあり、どこからが即興なのかは分からない。その後の世界は、正直言って記憶が曖昧だ。私は勝手に平原や氷河を思い浮かべていたが、その後川嶋哲郎本人の説明では、この会場の外側に飾られた「鉾やり」を表現したとのこと。自分の空想はずいぶん的外れなところに漂っていったらしい。しかし、居直りかもしれないが、そういう聴き方もあっていいとも思う。こうした作品では、意図された構成とハプニングの比重は、ライブの度に変化するのだろう。ほんの数ヶ月の間にも、彼のソロ演奏は変化していた。今回は、よりシンプルな音を精選しようとしていたように思う。

目の前に現れた一瞬の彫像のような演奏の全体像は、惜しむ間もなく消えていき、音の端々とその振動だけが確かな記憶となる。などと言うと、ライブレポートにならないのだが、彼のソロ演奏に聴き入ると、次々に生起することに気をとられてしまう。演奏は段落のないモノローグのようなものだ。4月のライブでは50分以上のソロ演奏を聴いた。こうなると聴くほうも長期戦だ。目の前の奏者の演奏にひたすら耳を傾け、彼の想起するものを読み取ろうとしてばかりでは、演奏を楽しめない。集中力が途切れ、自分の空想があちこちさまよう中、次々とスタンダード曲が登場した。川嶋のサックスから聴こえるのは、サックスだけではなく、ときにはピアノであり、ベースでもあるようだ。こうして一人数役をこなすのはなんとも面白かった。彼がこれまで聴き、または競演した数々のミュージシャンが登場するようでもあった。

彼のソロは、あるときは炸裂し、あるときはリズミカルになってリスナーの「ノリ」を呼ぶ。日本の歌曲を取り上げ、馴染み深いメロディーが、しだいに発展解消するのも面白い。

CD『天元〜改天喚地』で聴いた"On Green Dolphin Street"は、9分足らずだが、彼のソロの特徴が集約されていると思う。今後のライブで出会いたいスタンダード曲だ。だが圧巻は、なんと言っても、一曲目の53分10秒の吹きっぱなしメドレー。聴きなおすと、こんなにも多くの音を聞き逃していたのかと驚く。とはいえ、ライブ体験の価値はやはり下がらないとも思う。

『天元〜鏡花水月』は、日本の歌曲を集めた作品。「日本のうた」は、彼の定番演目となっているらしい。慣れ親しんだメロディーの後の川嶋流展開に、重なり合うイメージはやはり自然の風物かもしれない。

天元〜改天喚地
MTCJ-1073

天元〜鏡花水月
MTCJ-1072

 

*京都のこずえさんの『ぶろ日記』には、3回の川嶋哲郎・町家ライブが紹介され、あれこれと参考にさせていただきました。
(「ぶろ日記・その103、95、84」)
<http://www6.plala.or.jp/broccoli/>

『天元〜改天喚地』、『天元〜鏡月水月』、川嶋哲郎氏の詳しい情報については→川嶋哲郎オフィシャルサイト
TETSUDAS.COM<http://tetsudas.com/>

(今回は、TETSUDAS.COMのご好意により、2004年2月、Island Cafeで撮影された川嶋哲郎氏の写真を掲載させていただきました。この写真の無断転載、配布、加工等は禁止されています。また今回、ジャケット写真の掲載許可についてもTETSUDAS.COMにご協力いただきました。心から感謝しています。)

 

川嶋哲郎を最初に聴いたときはカルテットで、この5月には石井彰とのデュオを聴いた。どちらのライブも充実していた。さまざまな演奏活動は、ソロライブの「ネタ」であり、基盤なのだろう。紹介したCD以外に多くの作品があるが、個人的には、Eddie Gomez(b)、Billy Heart(ds)とのトリオでの"True Eyes"(ewe records)が特に気に入っている。

(文中のプレイヤーの敬称は略しました)
(2004年12月 岡崎凛)